第八夜完結編-サトリが見抜く夜【夜探偵フクロウと謎解き暗夜】
[投稿日:
最終章・真相
「この世に宙(ちゅう)が生み出された順序が扉を開く」
僧侶「サトリ」が遺したこの言葉が、謎のすべてを示しているんだ。
ここで書かれている「宙(ちゅう)」という言葉が何を意味しているのかというと、まったくそのまんま。「宙」という文字そのものを意味している。
つまり、「この世に宙(ちゅう)が生み出された順序」というのは、「宙」という漢字が生みだされる順序…。
「宙」という文字の書き順のことさ。
「宙」という漢字は全てが縦線と横線から構成されている。
書き順に従って縦・横と、順番に並べていこう。
すると、「縦・縦・横・縦・縦・横・縦・縦・横・横」。
なので、仕掛け箱を開けるための「■・■・■・■・■・■・■・■・■・■」という10個の文字には、「縦・縦・横・縦・縦・横・縦・縦・横・横」が当てはまるよ。
「縦」「横」「斜」「丸」「無」という5種類の文字の内、「斜」「丸」「無」は関係がないんだ。
僧侶たちは難しく考えすぎたんだね。
それも無理はない。
人間の脳はヒューリスティックと呼ばれる闇をかかえているという。これは、中身そのものではなく、パッと見で判断してしまうという傾向さ。
たとえば、細かい文字でビッシリと書かれた書類を見ると、内容を読んでもいないのに「難しそう」と感じてしまう。
もともとこの能力は、生きるためのモノだった。たとえば、黄色と黒の縞模様の虫が、ブーンと羽音をさせながら近づいてきたら、たいていは逃げる。蜂だと思うからね。
けど、実際よくよく調べてみたら、蜂じゃないかもしれない。蜂によく似た虫かもしれないし、もしかしたらドローンかもしれないよね。
ただ、現実的には刺されたら死ぬかもしれないわけだから、逃げた方が正解だ。時間をかけて調べている場合じゃない。
なので、ヒューリスティックっていうのは本来は人間の大切な能力だったんだ。けど、人間の文明が発展し、身の回りの危険が減ったことによって、ヒューリスティックは錯覚や偏見を生み出す負の機能となってしまった。
僧侶たちもこの罠にはまった。「サトリ」という能力ある僧侶が書いたものだから、「宙」という意味深な文字だから、何か深い意味があるに違いないと考え、答えに行きつくことができなかったんだ。
さて…。
結局、開いた仕掛け箱の中に何が入っていたかといえば、一冊の日記帳だった。
そこには、「サトリ」の本来の姿が描かれていた。
彼はもともと、賭けポーカーを得意とするギャンブラー。もともと人の心理を読むのが得意だった彼は、賭けポーカーも強かった。
ただ、あまりに人の心を読むのが得意な彼は、やがて詐欺師まがいの商売に手を染めていく。
そこで、彼の前に表れたのが、彼の幼馴染だった。彼の幼馴染は、僧侶になっていてね。犯罪に手を染めていた「サトリ」が許せなかったらしい。
幼馴染は「サトリ」にギャンブルでの勝負を挑んだ。「サトリ」の得意なギャンブルでもし幼馴染が勝ったら、犯罪から足を洗えという約束でね。
「サトリ」は幼馴染の心を的確に読み、終始勝負を優勢に進めたよ。さすがだね。
でも、負けたのは「サトリ」だった。
カジノの手違いでね、ジョーカーが二枚、カードの中に紛れ込んでいたんだ。そしてそれが偶然、幼馴染の手に渡っていた。だから、「サトリ」は人の心を読み違えたんだ。
あり得ない。恐ろしいほどの偶然だ。
そして、「サトリ」は偶然に弱い。
負けた結果、「サトリ」は潔くギャンブルから手を引き…さらに、僧侶になった。
つまり、「サトリ」が人の相談に乗るのが上手かったのは、元々人間心理に長けていたから。決して、悟りの境地に達していたわけではないのさ。
けど僧侶たちは長年、ギャンブラーを、悟りの境地に達した高僧だと思い込んでいた。これもヒューリスティックかな。
…いや、でもどうだろうねえ…?
「サトリ」は、悟りの境地に達したように振る舞うギャンブラーだったんだろうか…?
あるいは、自分の人特技を生かして人の悩み相談に乗ってあげる、れっきとした僧侶という見方もできそうだよね…?
結局、失踪した「サトリ」はまだ発見されていないので、どちらが「サトリ」の本性なのかは、我々の判断にゆだねられている。
いやはや、人の脳は、難しいね…。
…さて…、もうすぐ夜が明ける…。ボクの時間はここまで。また次回、お会いしよう。