変貌【ぞくっ、とする怖い話】
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Tさんには仲の良い従姉妹がいた。
家が近所だったので、幼いころからよく2人で遊んでいたという。
学校に入ってからも、放課後はほとんど2人で遊ぶことが多かった。
従姉妹はとても明るく、ほがらかに笑う子だった。
笑った時にうかぶえくぼと、大きめの八重歯が特徴的だったそうだ。
ある時……近所にあった小さなアーケード通りの中のお店がすべて閉店した。
……といっても一斉に閉店したわけではない。
一年ほど前から一店、また一店と閉店していき……そのころ最後の一店が閉店したのだ。
ちょうどそのころ、学校で心霊ブームがあった。
学校に心霊写真を特集した本を持ってきた生徒がおり……そこから徐々に皆の中に流行っていったのだ。
最初は心霊写真を見る程度のブームだったものの、やがて心霊スポット的なところに行ってみようという話に……。
生徒達が目をつけたのは、閉店したアーケード通り。
すべてのお店のシャッターが閉じ、閑散とした様子はいかにも心霊スポット的。生徒達が肝試ししたがるのも無理なかった。
実際に肝試しをした生徒も少なくないそうだ。
……もちろん、実際に心霊現象に遭遇したという生徒はゼロだった。
だからTさんと従姉妹も、ちょっとした冒険気分で肝試しをしてみようという話になった。
ただ、他の生徒達とちょっと変わった肝試しをしたい。
そこで、夜に家を抜け出して、肝試しをすることにした。
肝試しとはいえ、さほど時間のかかるものじゃない。何せ、小さなアーケードの商店街。しかも、すべての店のシャッターが下りている。見るところなど限られているのだ。
さらにいえば……夜なので、シャッターが閉じていても違和感がなかった。
夜の閉店後、フツーに商店街を訪れるのと変わらない。ただ……ひとつだけ違和感があった。
ある店舗のシャッターに、お札が貼られていたのだ。
黄ばんだお札に赤い文字で、呪文のようなものが書かれていた。
不思議なのは……お札の貼られたその店舗が元々何の店舗だったのか、わからないこと。
思いだせもしない……。
思いだすきっかけとなるような手がかり……看板やのぼりのようなものは一切なかった。
Tさんはじっとその店舗を見つめていたが、そのままそのお店を眺めていると、店の中に吸い込まれるような気がして、目をそらした。シャッターが完全に下りているのに、どうして吸い込まれそうに感じるのか不思議だったという。
目をそらして、ふと従姉妹が今どこにいるのか気になった。左右を見回すと、従姉妹はその、お札の貼られた店の前にいた。
お札をじーーーっと見つめて、何かぼそぼそとつぶやいている。
Tさんは言いしれない怖さを感じて、従姉妹の手を取った。
「ねえ、もういいよ。もう帰ろう!」
Tさん達の肝試しは、そうして終わった。
お札を見かけたという以外、特に不思議なことは起きなかった……ように見えた。
ただ、肝試しの後、明るかったはずの従姉妹が、人が変わったように暗く内向的になってしまったという。
笑うことが少なくなり、えくぼも八重歯も目にする機会がなくなった。
いや……従姉妹が外に出ることを嫌がったため、そもそも遊ぶこと自体、減ってしまったという……。
今ではその従姉妹とのやりとり自体、全くないそうだ。