いたずら【ぞくっ、とする怖い話】
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Sさんは、一度だけ霊能者を頼ったことがあるという。
社会人になって数年が経過したころ、ある日を境に急にツキが悪くなった。
通勤電車に乗り遅れたり、お弁当が目の前の一人で売り切れたり……。
細かいことではあるのだが、ツイてないな、と感じることが増えたのだそうだ。
それだけではない。体調の悪さも感じるようになっていた。
朝起きが苦手になり、起きると頭痛やだるさを感じるようになっていた。
友達に相談すると、五月/病とかうつなんじゃないか?というので、一応、心療内科を受診してみたそうだ。
しかし、五月病とかうつとかいう状況ではないとのこと。
少し様子を見てみようという話になった。
ただ、異変は、それ以外にもあった。
身の周りでちょっとした不思議な現象を目にし始めたのだ。
ある日は、散らかしたつもりはないのに部屋が散らかっていた。
またある日は、タンスやテーブルといった家具に、クレヨンで描いたような小さな汚れがついていた……。
さらにある日は、ポケットにくしゃくしゃの紙の切れ端が入っていた。
切れ端を伸ばしてみると、3歳くらいの子どもが描いたような、何が描いてあるのか判然としない幼稚な絵が描かれていたそうだ。
まるで、Sさんの周囲に透明な子どもがいて、その子どもがいたずらをしているようだった。
それから2週間ほど過ぎたが、何も改善しなかった。
ツキの悪さも体調も、不思議な現象も。何ひとつ改善しない。
そこで、Sさんは意を決して、霊能者に相談してみたそうだ。霊能者は、ネットで検索したという。
するとその霊能者はこう告げた。
「どうしてかわからないが、子どもの霊がとり憑いているようだ……。その部屋に引っ越してくる前に、その部屋で子どもが死んだとか、そういったことがあったのでは?」
だが、その部屋はこんなことが起こる数年前からSさんが住んでいる部屋だ。今さらになって子どもの霊に祟られるというのは、感覚的に納得できない。
その後すぐ十数万円もする高額なお守りを勧められたこともあり、Sさんはその霊能者を信用しないことに決めたそうだ。
とはいえ……事態は何も解決していない。
Sさんがほとほと参っていたある日、近所の人にこんなことを言われた。
「弟さん、かわいいですね……」
「えっ!?」
Sさんには弟などいない。一人暮らしだ。驚いて聞き返すと、近所の人はこんなことを語った。
以前…ちょうど、Sさんの周りでおかしなことが起き始める直前のこと……小さな男の子がSさんの家の前で行ったり来たりを繰り返していたことがあった。
「どうしたの?」と聞くと、男の子は泣きそうな顔をした。
そこで、その人は言ったらしい。
「この家の子?だったら外じゃなくて中に入りなよ」
その言葉に、子どもはこう聞き返した。「……入っていいの……?」「うん、いいよ…」
その言葉を聞いた子どもは、嬉しそうにSさんの部屋に入っていったのだという。
この話を聞いた瞬間、Sさんの背筋に悪寒が走り、その場に立っていられなかった。
Sさんは次の日すぐさま引越しの準備を開始し、他の家に引っ越したそうだ。
その後は不思議な現象も収まり、体調も改善したそうだ。
ただ……ツキの悪さは相変わらずだという。