回覧板【ぞくっ、とする怖い話】
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実話怪談を収集していると、中にはやや短めの逸話も存在する。
今回はそんな短めの逸話からひとつ紹介したい。
Hさんがあるアパートに住んだ時の話。
そのアパートに住んで半月/ほど経っても、他の住人の気配がなまったくない、そんなアパートだったという。
物音が、まったく聞こえてこない。
とはいえ、Hさんとは起きている時間が違うのかもしれない。
あるいは、長期間の旅行に行っているのかもしれない。
そもそも、うるさいよりは静かな方がましだ。
Hさんがそう思っていると、ある日、回覧板が回ってきた。
開くと、一枚の紙に住人の苗字が書いてあり、×印がついている。
回覧板を確認したら、ここに×印を書くのだろう。最初、Hさんはそう思った。
実際、×印の下には「バツを書いて戻してください」と書いてある。
しかし、妙なことに回覧板にはその紙しか挟まっていない。
回覧板の裏や表を確認してみるものの、どこかにお知らせらしきものが書かれているということはない。
回覧する途中で、お知らせの書かれた紙が落ちてしまったのだろうか。
そう思ったHさん、そこで「あれ?」と違和感を覚えたという。
「バツを書いて戻してください」と書いてあったが、フツーは「バツを書いて“回してください”」じゃないだろうか。
そう思ってもう一度紙を見返すと、最初に読んだ時には見落としていたらしい。文章には続きがあった。
「バツを書いて戻してください。迎えに行きます」
無性に怖くなったHさん、回覧板は回さずに、すぐに実家へ引越したという。