忘れ物【ぞくっ、とする怖い話】
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実話怪談を収集していると、中にはやや短めの逸話も存在する。
今回はそんな短めの逸話からひとつ紹介したい。
Mさんが、弟と一緒に山に遊びに行った時のこと。
途中で迷ってしまい、弟とはぐれてしまったという。
しばらく弟を探したが見つからない。
これは一旦下山して、救援を頼んだほうがいいかもしれない。
……そう考えた時、携帯電話が鳴った。
番号は非通知。
「こんな時に一体なんなんだよ!」と苛立ちながらMさんは電話に出た。
すると、いきなり「忘れ物を預かってます……来て下さい」と告げられた。年老いた声だったという。
Mさんが「忘れ物って……それどころじゃないんだけど!」と怒鳴るように言うと、それを無視して、「目の前の、根っこ付近にえぐれた傷のある大きな木を左に曲がれ」と告げる。
Mさんは電話を切ろうとした……が、思いとどまった。本当に、目の前に言われた通りの木があったからだ。
怖ろしさを感じながらもMさんは、電話の声に従い、山道を歩きだした。
20分……いや、実際には10分位だったかもしれない。
しばらく歩いたところで、「忘れ物です」と告げられた。
そこには……木からブラ下がる、弟の姿があった。
自殺だったという。
もちろん、弟さんに自殺の兆候などなかった。Mさんとの山登りだって楽しみにしていたのだ。
Mさんはその後、電話を確認してみたが、履歴には一切着信の記録がなかった。
それ以来Mさんは、一切山に近づかなくなったそうだ。