光景【ぞくっ、とする怖い話】
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Iさんがまだ子どものころ。遠い親戚が亡くなったため、親に連れられて葬儀に参列した時の話。
まだ小学校に入る前だったとのことで、Iさんは葬儀がなんなのか、よくわかっていなかった。
そのため、いつもとは違う雰囲気にワクワクしていたそうだ。
それはIさんだけではなく、親戚の子ども達もそうだったらしい。
ほとんど同い年くらいの子どもがIさん以外に2名おり、すぐ仲良くなり、はしゃぎ始めた。
3人揃って親にくりかえし注意を受けたが、そんなことではまったく止まらなかったという。
はしゃぐ勢いは、火葬場に入ってピークに達した。初めて訪れた火葬場に3人は興奮。誰からともなく言いだし、「お葬式ごっこ」を始めたのだという。
「お葬式ごっこ」の内容は、一人が死体役として床に横たわり、一人が遺族役で泣き真似をする。もう一人はお坊さん役で、念仏を読み上げるというもの。
とてもじゃないが火葬場で遊ぶ内容ではない。しかし、3人ともそれがわかる年齢ではなかった。
何故か3人とも死体役をやりたがったため、じゃんけんで決めることに。結果、Iさんは、お坊さん役となった。
死体役の子が床に横たわり、遺族役の子が泣き真似をはじめると、Iさんはお経を読み上げた。
……といっても、お経の内容を覚えているわけもない。口の中でごにょごにょと、言葉にならない言葉を言っているだけだ。
しばらくそうやって読経の真似をしていると……いきなり、死体役の子が飛び起きた。腕で体を抱えるように抑え、涙ぐみ、「熱い……熱い……」と繰り返している。
……まるで、うなされているようだ。
「どうしたの…? ねえ、どうしたの?」
死体役の子は、体を抱えて苦しそうにするばかり……。
Iさんは、どうしたらよいかわからず、ただその場に立ち尽くした。
すると、遺族役の子が言った。「ぼく、お父さんとお母さん呼んでくる!」
遺族役の子が駆け出すのを、Iさんは何もできず見ているだけだった。
その場には、苦しみ続ける死体役の子と、Iさんだけが残された。
……ふと、Iさんは、死体役の子に何が起きたんだろう……と思ったという。
床に寝ると、何か起きるのかな……?
そう思って、Iさんも床に寝てみたそうだ。死体役の子と、同じように……。
そして、目をつぶった……。
すると…真っ暗な空間で、炎が踊っているのが見えた。
ごぉぉぉぉぉ……といううなり声のような音を立て、真っ赤な炎が踊っている。
その炎に、Iさんの体が焼かれる。熱い。物凄く、熱い。炎が、Iさんの体を灰に変えていく……。痛い。それまで味わったことがないような、痛みだった。
熱さと痛み……そして恐怖心に耐えられず、Iさんは目を開けた。そこには……。
遺族役の子が親を引き連れて、戻ってきていたという。その後、3人ともこっぴどく叱られたそうだ。
夢なのか……それとも子どものころの感受性の高さが招いた妄想のようなものなのか……。
炎の正体はわからないものの……その映像自体は今でもくっきりと思いだせるほど、目に焼き付いているという。
自分が死ぬ時……、あの炎をもう一度見るのかもしれない。
Iさんは、なんとなくそう思っているそうだ。