事故物件【ぞくっ、とする怖い話】
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大学に入学の決まったAさんが、一人暮らしをするため引っ越しをした時のこと。
アルバイトで学費を賄おうと考えていたAさんは、なるべく安いアパートを探していた。すると、三件ほど不動産屋を回ったところで、激安アパートを発見。
現地を確認してみると、激安ということもあってやはり汚い。カベはタバコのヤニで黄ばんでいるし、そこここの柱にはシールの剥がし損ねが。
さらに不動産屋によると、毎日同じ時刻にお風呂場から変な音が聞こえてくるとのこと。恐らく建物が老朽化していることが原因だろう、とのことだ。
Aさんは迷ったが、激安価格にはあらがえず、結局契約に至った。
一人暮らしを始めてすぐ、お風呂場の変な音に遭遇した。ざざっ…、ざざっ…、ざざっ…。どこからか、何かを引きずっているような音が聞こえてくる。
恐らくこれが、不動産屋の言っていた音なのだろう。気持ちはよくないが、建物の老朽化が原因じゃしょうがないか…初日はそう思って気にしないことにした。
しかし…何日か続いたある日、ふと思った。「老朽化でこんな音するのかな…。普通、もっと木がきしむような音じゃないのかな…」と。
一度そう思うと、心にしこりが残ったように、そればかり気にかかるようになってしまった。
Aさんが思い悩んでいたある日、お隣さんに遭遇することがあった。引っ越してた初日に挨拶に伺ったが、お隣さんが不在にしていたため、会うのはそれがはじめてだったそうだ。落ちくぼみ、くまができ、不眠症にでもなったかのような目が特徴的な人だったという。
もしかしてこのお隣さんもあの音に悩まされているんじゃ…?そう思ったAさんは聞いてみた。しかし、そんな音なんて聞いたことがないという…。
もしかしして、自分にしか聞こえない音なのだろうか…そう思ったAさんは、「この家、事故物件/なのでは…?」と思い至った。汚いから激安なのではなく、霊が出るから激安なのではないか…。
その夜、Aさんがお風呂に入ると、やはり変な音が聞こえてきた。ざざっ…、ざざっ…、ざざっ…。恐怖を感じたAさんは、お風呂を出ようとした。
その時…ふと、Aさんは天井を見上げた。そこには、小さな穴が開いていた。その穴の中に、周りが落ちくぼんだ…不眠症のような目が覗いていた。瞬時にAさんは、その目がお隣さんの目だと気付いた。
つまり…お隣さんが、天井から覗いていたのだ。
ざざっ…、ざざっ…というあの音は、お隣さんが天井を這いまわっている音だったのだ…。
…気付いたら何をされるかわからない。悲鳴を上げず、気付いたことに気付かれないように、いつもの通りに…。なるべく自然に振舞いながら、Aさんはお風呂を出た。
もしお隣さんが家に入ってきたらどうしよう。そのことばかり考えて、Aさんは生きた心地がしなかった。お風呂を出てから翌朝まで、一睡もできなかったという。
翌日、始発が動き出すタイミングでAさんは家を出た。不動産屋が開くまで24時間営業のファーストフードで時間を潰し、不動産屋が開くとすぐに、家の解約を申し出たという。
不動産屋は、すべて知っていたかのように、スムーズに解約処理を進めてくれたそうだ。