黒い芋虫【ぞくっ、とする怖い話】
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団地住まいのJさんが自宅で経験したという不思議な話。
その団地は建設から大分年季が入って、5階建てにも関わらずエレベーターがついていなかった。
Jさんの家は1階だったためさしたる苦労はなかったそうだが、5階に住む老夫婦は相当苦労していたという。
特に老夫婦のご主人の方は足が不自由で、車いすがないと移動できなかった。基本的に老夫婦の奥さんの方が外出を担当していたようだが、病院など、どうしてもご主人が外出しなければならないという際は大変な苦労だったという。
そんな折、近々エレベーターの設置工事があるという話が入った。老夫婦の奥さんと立ち話した際、「本当によかったですね」といって笑いあったという。
ある日のこと。Jさんが寝ていると、不意に目が覚めた。
しかし、目は覚めているのに体が言うことを聞かない。
もしかして、金縛り/……? そう思ってJさんは物凄い恐怖心に襲われたという。
Jさんが体を動かそうと躍起になっていると、暗闇が動いているように見えた。真っ暗な部屋の中を、何かがもぞもぞと動いている。
もぞもぞ……もぞもぞ……と、芋虫が這っているような動きだ。
もぞもぞ……もぞもぞ……真っ暗な、芋虫のような影が大きくなっていく。
……近づいてきているのだ。
Jさんは悲鳴をあげそうになったが、悲鳴すらあげられない。黒い芋虫はどんどん近づいてくる。
いや……、それは、芋虫ではなかった。
人影だ。足がない人影が、這いよってきていた。
Jさんが覚えているのはそこまでだという。
実際のところ、それが現実だったのか夢だったのかすら分からないらしい。
ただ……。
Jさんは翌日、老夫婦のご主人が亡くなったという話を聞いたそうだ。
「挨拶に来てくれたのでしょうか…。もしかして、私の家が一階だから、出て来やすかったのかも…」