夢【ぞくっ、とする怖い話】
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人は夜、必ず夢を見ているという。夢を見た記憶がないという場合、目覚めた時に夢を忘れてしまっただけなんだそうだ。
この話を聞かせてくれたSさんは、あまり夢を見ないタイプ…。
つまり、目覚めた時に夢を忘れてしまうタイプということになる。
当時、Sさんの元によくいたずら電話がかかってきていた。今思い返せば、詐欺犯が下調べのためにいたずら電話をしていたのかもしれない。ただ不思議なのは、電話がかかってくるタイミング。
必ず、睡眠から目覚めた直後に電話がかかってきていた。朝だけではない。昼にうたたね寝したような時でも、起きると電話がかかってくる。逆に、うたた寝しなかった昼には電話がかかってくることはない。
何度かそういうことがあって、Sさんは電話番号の変更を検討し始めていた。
…そんなある日のこと。
その日の夜見た夢は、翌朝になってもSさんの記憶に残った。…こんな夢だ。
夢の中でSさんは、妹と一緒に散歩をしている。歩いていると、珍しい形の花に目が惹きつけられた。
「ねえ、この花珍しいね…」
そう言いながら妹の方を見ると、そこに妹はいない。
妹は誰かに足を掴まれ、連れ去られようとしていた。引きずられながら、懸命にもがく妹。
「妹を返しなさいよ…!」Sさんは妹の手を握って、懸命に引っ張った。
だが妹を引きずろうとする力は、物凄く、強い。
Sさんと何者かによって逆方向へ引っ張られ、妹は「痛い…痛い…」と悲鳴を上げた。でもSさんは力を緩めない。「ごめんね、ごめんね」と言いながら妹を引っ張り続けた。
何者かの力がさらに強くなり、妹の悲鳴がさらに強くなった。
思わず、Sさんは叫んだ。「妹は絶対に渡さないんだから!」
…と、そこでSさんは目を覚ました。
夢から覚めても、まだ夢の中のような……それくらい、リアルな夢だったという。
目を覚ました次の瞬間、いたずら電話がかかってきた。
電話に出ると、くぐもった声が聞こえた。
「おまえの妹をよこせ…」
その言葉にSさんは大きな声で「妹は絶対に渡さないんだから!」と怒鳴った。妹に後から「どうしたの?」と心配されるほど大きな声だったそうだ。
不思議なことに、その一件があってから後、いたずら電話はパタリと止んだという。