アンティーク【ぞくっ、とする怖い話】
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Yさんはアンティーク家具が好きで、休日になるとよくアンティークショップを覗いていたという。この話のきっかけも、アンティークショップだった。
いつものようにアンティークショップへと立ち寄ったYさんは、そこで一目惚れをした。
…といっても、相手は人間じゃなくて、アンティークの鏡。全身を写すことができる、大きな姿見だった。
フレームは木製で、歴史を感じさせるダークブラウン。細かな彫刻が施されており、上品で高級感を感じさせる作りだったそうだ。
さぞかし高いんだろう、そう思って価格を見ると、なんと1000円もしない。
「こんな素敵な鏡が? 何で……?」一瞬疑問に思ったが、でもそんなことより十分手が届く価格だったことへの喜びが勝った。当然のように、Yさんはその鏡を買ったそうだ。
Yさんはその鏡をバスルームの前に置くことにした。
木製だし、湿気で傷むかも…と思ったのだが、鏡をいつも利用するのは風呂上がり。Yさんは、家具は飾っておくだけじゃ意味がない、利用してはじめて意味がある…という価値観を持っていた。その時も、自分の価値観に従ったのだという。
その日の夜、お風呂に入ろうとしたYさんは、不意につんのめった。見ると、服が鏡に引っかかっている。フレームに施された彫刻にフック状の部分があり、そこに服が引っかかっていた。Yさんは丁寧に服を外し、お風呂に入った。
次の日、今度は服が引っかからないように気をつけてお風呂に入ろうとしたが…やはり引っかかる。
やっぱり鏡をバスルームに置くのはやめた方がいいか…。
そうも思ったけど、他の場所に置き換えるのはめんどくさいし、何か悔しい気持ちもある。結局Yさんは、鏡をそのままにしておくことにした。
しかし、その翌日も、さらに次の日も、やはり引っかかる。ある日、とうとうYさんは「さすがに今日引っかかったら鏡を他の場所に置くことにしよう」と決心した。
その日は、服が引っかからないよう特に気をつけた。すると…その日は偶然、服が引っかかる瞬間が目に入った。
いや…、それは、引っかかっていたのではなかった。
鏡の中から手が伸びてきて、服を掴んでいたのだ。
Yさんは悲鳴をあげ、服を思いきり引っ張った。服に引きずられて、鏡が音を立てて倒れた。
そのまま数分、Yさんは鏡を倒れたままにしておいた。鏡の中に何かがいる…そう感じたからだ。
しかし、そのままにもしておけない。意を決して鏡を戻すと、そこには…
…普通に、バスルームの風景が映っていた。
見間違いや、気のせいかもしれない…。そうも思ったが、Yさんはその翌日、鏡を売ってしまったという。アンティークショップではなく、中古の家具屋に売ったそうだ。