その後【ぞくっ、とする怖い話】
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フリーターのHさんの話には続きがある。
Hさんの家に泊まり込むようになった先輩が、Hさんの両親がやってくるというイベントのためHさん宅から出ていった…その続きだ。
先輩が出ていってからも、Hさんはバイト先で先輩と顔を合わせていたそうだ。先輩は元気を取り戻したようだった。少なくとも怯えたようなそぶりは見せない。
その後物音がどうなったのか、詳しく聞いてみることはしなかった。親しげに話しかけたり気づかいを見せたりしたら、また「泊まらせてくれ」なんて言われるかもしれない。そう思ってHさんは、あまり先輩と接触しないようにしていたのだ。
ただ、ある時先輩が別の人間と話していて、先輩が元のアパートに戻っていることを知った。階段を近づいてくる物音が恐ろしいと言っていたのに戻っているということは、もう物音はしなくなったのだろうか。
あるいは、元々先輩はさみしがりな性格で、人の家を泊まり歩くような性癖を持つ人間だったのかもしれない。物音というのは、人の家に止まらせてもらうための方便だったのかも…。
いずれにせよ、Hさんの中で心の重みが少し減ったような気がした。
だがその数日後から、先輩がパッタリとバイトに来なくなった。
Hさんは、体調が悪くなったのかな…くらいに考えていた。しかし、何回か無断欠勤が続き、店長からHさんへ、先輩のアパートに様子を見に行ってくれないかと打診があった。どうやら、Hさんは先輩と仲がよいと思われていたらしい。
できれば行きたくない。そう思ってHさんは即座に断った。先輩と接触したくなかったし、信じているわけじゃないが、物音がするという話も気分が悪い。
すると、店長はすんなり了解したそうだ。
それからも先輩の無断欠勤は続いたため、結局先輩はバイト先を解雇されることになったという。
解雇にともない、先輩が私物化していたバイト先のロッカーを整理することになった。バイト皆で、貴重品やプライベートなものとそれ以外とを分ける仕分けを進めた。
すると…先輩の私物の中に、真っ黒な紙が一枚あった。スマートフォンくらいのサイズの紙で…焼け焦げたようにまっ黒だ。誰がどう見ても、単なるゴミでしかない。
しかし、Hさんはその紙に覚えがあった。
その紙は、もしかすると、先輩が階段を写したといっていた…写真じゃないか。そう思ったのだ。
元は写真だったものが、黒い部分がどんどん広がり…最終的に真っ黒な紙になったのではないか。
紙のサイズ的には写真である可能性が高い。しかし、確証はない。
でもHさんはそう確信し、その写真をバイトの後輩に処分させた。不吉な気がして、自分で処分する気にはなれなかったそうだ。
もちろん、その写真が先輩の失踪と関係しているのかどうかはまったくわからないという…。