夜勤【ぞくっ、とする怖い話】
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老人ホームに勤めていたYさんが、昔に体験した話。
その日は、老人ホーム全体が暗いムードに覆われていた…。
その日、入居者の一人が急に体調を悪くし病院へ入院…。そのまま容体が悪化し、亡くなるということがあったためだ。
亡くなったその入居者は、お孫さんからもらった赤い紐のついた鈴を常に持ち歩いており、いつも音色を自慢していたという。
Yさんはちょうどその日、夜勤だったそうだ。
引き継ぎを終え、夕食や服薬、就寝の介助…いつも通りに仕事は進んでいった。巡回もスムーズに終わり、2時前には休憩に入れたという。
ところが、Yさんが一息ついたとき…
チリン…という音がひとつ、どこからか、聞こえた。
ナースコールではない。チリン…という…鈴の音だ。
気のせいかとも思った。…しかし、しばらくすると再び…チリン。
Yさんは、さすがに無視できなくなって、廊下に出た。すると、少し霧がかかっているように見える。そして、少し、けむい。
Yさんは火事かと思って一瞬焦ったものの、どうもその匂いは煙ではないようだ。
…それは、お線香の匂いのように感じられた。目をこらすと、霧のように見えるのは、どうやら線香の煙のようだ。
Yさんは煙を追うように、廊下を進んでいく。まるでYさんを手まねきするように、定期的にチリン…と鈴の音が響いた。
やがて…Yさんは老人ホームの玄関に辿りついた。そこには…
…その日、亡くなった入居者の荷物が置かれていた。
翌日、遺族が引き取りにくるはずのもの。線香の匂いと白い霧は、どうもその荷物から漂っているようだった。
Yさんは、荷物が目に入った瞬間、急いで引き返したという。そしてそのまま翌朝まで、玄関には近づかなかったそうだ。
翌日、日勤を担当する別の職員によって、無事遺族に荷物は引き渡されたという。