補助輪【ぞくっ、とする怖い話】
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Nさんが小学生のころのことだ。
近所に住んでいた、まだ幼稚園児くらいの女の子にNさんは物凄くなつかれていたそうだ。その子は、「おねえちゃん、おねえちゃん」と会う度に駆け寄ってくる。Nさんもその子をかわいがっており、会うのを楽しみにしていた。
その女の子が、ある日、事故に遭った。
その日女の子は、自転車の補助輪を片方はずす訓練をしていた。その日が初めてということもあり、運転はふらふら。もちろん、親が一緒に訓練していた。
ただ、ほんのちょっと、一瞬、親が目を離した。
そして…ぶつかったのだ。
ただ、ぶつかった相手も自転車だった。このため、女の子もさほど大きな怪我はなく、軽い打撲と擦り傷ていどで済んだという。
ただ、女の子の親は「二度とこの子を自転車に乗せない!」とえらい剣幕だったそうだ。Nさんが偶然会ってあいさつした際も「この子を自転車に乗せたりしないでね!」と釘を刺すほどだった。しかし……女の子は自転車に乗りたがった。
ようやく補助輪を片方はずすことができたのだ。事故を起こしてしまったとはいえ、女の子は自身の中に上達の手ごたえを感じていたのだろう。
その当時、Nさんはようやく自転車に補助輪なしで乗れるようになったころだった。だからそれ以降、女の子と会う度にうらやましがられたという。
「いいなぁ、おねえちゃんはいいなぁ」
「いいなぁ、補助輪なしで乗れていいなぁ」
「うらやましいなぁ」
会う度、会う度にそう言われるので、さすがにNさんも女の子の存在を重く感じ始めた。
いや…事実、女の子の態度は会う度に重くなっていったという。じーっとNさんを見つめながらうらやましいと言うだけだったのが、次第に自転車のハンドルにさわりたがるようになった。
ハンドルにさわるくらいいいか…とNさんが許すと、握ったが最後ずーっと離さない。言い聞かせてハンドルを離してもらうのに相当苦労したという。
…そんなことが続いたある日、さすがにNさんは限界に達した。
「もういい加減にして!あなたを自転車に乗せたら、あなたのお母さんに怒られちゃうでしょ!」そう、Nさんは怒鳴った。
多分、女の子は泣きだすだろう。しかし、しょうがない…。そう思いながら、怒鳴ったのだという。しかし、予想に反して女の子は泣かなかった。
その代わり、じっと、じぃぃっと、Nさんをにらんでいた。その様子に、Nさんは恐怖を感じたという。
…その日の夜のこと。
女の子の家が火事になった。家は全焼、女の子を含めて一家は誰も助からなかったそうだ。
それからというもの…Nさんは女の子の家があった場所の前を自転車で通る度、自転車の速度が遅くなるのを感じた。ただペダルが重くなるだけではない。何故か、ハンドルまで重くなる。まるで誰かが自転車のハンドルを、前から物凄い力で抑えているようだ。
多分、その女の子だ…。
Nさんはその時直感的にそう感じたという。
その日以来、Nさんは自転車に乗るのをやめたそうだ。