祭りのお面【ぞくっ、とする怖い話】
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子どものころ夢中だったのに、大人になるとまったく興味のなくなるものがある。
人によってそれは違う。
おもちゃだったり、お菓子だったり、アニメだったり…。
Oさんにとってそれは、お面だった。
この話は、今から20数年くらい前にさかのぼる。
当時、Oさんは小学校に入りたて。
東京都杉並区の荻窪に住んでいたという。
Oさんは夏になると開かれる、地元の神社のお祭りを毎年楽しみにしていた。
その年のお祭りは平日からの開催。
はやる心を抑えきれなかったOさんは、父の帰りを待たずに、母、兄、妹という4人でお祭りに向かった。
商店街の端っこに位置している神社は、入り口から本堂までがかなり長い作りだ。
その道の左右に、毎年出店がずらっと並ぶ。
出店でOさんがいつもねだったのは、お面。
アニメや漫画のキャラクター、特撮のヒーロー……店先に沢山並んだ色とりどりのお面に、毎年Oさんは引きつけられていたという。
ねだったところで、すぐに壊れてしまうからと買ってもらえないことも多かった。
しかしその日は「お父さんに内緒だよ」と言って、母親が買ってくれたという。
当時Oさんが大好きだった、あるアニメの主人公の女の子のお面だ。
買ってもらったお面を頭の横につけ、Oさん達は金魚釣りや型抜きなどを一通り楽しんだ。
家に帰ったころにはさすがに全員疲れきっており、そのまま泥のように眠ってしまったという。
…Oさんが目を覚ますと、真夜中だった。
目を覚ましてすぐ、ベッドから壁の時計を見上げたのだという。
2段ベッドの下がOさんのベッドだった。時計を見てまだ夜中だと確認したOさんは、うとうとしていたため、再び眠りにつきそうになった。
すると…2段ベッドの上から、すーーーっと、お面が降りてきた。
能面のように、白いお面。
2段ベッドの上には、Oさんのお兄さんが寝ていた。
普段からちょっかいやいたずらをするのが大好きで、Oさんはいつも泣かされていたという。
Oさんは、またかという思いで「お兄ちゃん、やめてよ…」と言った。
このままいたずらを続けられるのは敵わない…そんな思いでOさんが上のベッドに上がると、そこにはすーすー寝息をたてるお兄さんの姿。
話しかけてみたが、たぬき寝入りという感じでもない。
見回すと、辺りに先ほどのお面は見当たらなかった。
気のせいかな…そう思ったOさんは自分のベッドへ戻った。
自分のベッドに戻ったOさんは、寝ようとしたものの…一度起きてしまったせいか、なかなか寝付けない。
だから、しばらく2段ベッドの上の方を見ていたという。
すると、またすーーーーーっと、お面が降りてきた。
これにはささすがのOさんも、怒って声を上げたという。
「お兄ちゃんいいかげんにして!」
と、その瞬間能面の眼が三日月/型に変わり、声を立てて笑いだした。
ゲラゲラと笑うお面に恐怖を感じたOさんは、悲鳴をあげて布団に潜りん込んだという。
すると、ドアの開く音が聞こえ、「どうしたの?」という声。
――お父さんの声だったという。
その声に安心したOさんは、ベッドから降り、お父さんに一部始終を話したのだそうだ。
お父さんは「今日は一緒に寝ようね」と言ってくれ、その日はお父さんのベッドで一緒に寝ることになった。
――翌朝。
起きると、ベッドにお父さんの姿はなかった。
リビングに行くと、お母さんが朝食の用意をしている。
「あのねママ、昨日の夜怖いことがあったんだよ…。
でもお父さんが助けてくれて、一緒に寝てくれたんだ…」
お母さんの背中に向かってOさんがそう話しかけると――
「なに言っているの?…パパ、昨日から出張じゃない」
お母さんは、そう、返した。
あの夜のできごとはなんだったのか、大人になった今もまったくわからないという。
ただ、Oさんはそのお面も、助けてくれたお父さんの姿も、確かに見たのだそうだ。