虐待
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Dさん夫妻の話だ。
数十年前…まだDさん夫妻が十代で、結婚前だったころ。
Dさんたちは、子どもを授り結婚した。いわゆる「できちゃった婚」という形だ。
もともと二人とも、結婚するつもりだったので結婚すること自体は心から嬉しかったという。
子どもについても、つきあっている内からゆくゆくは子どもが欲しいという話をしていたので、二人とも出産に喜びを感じていた。
…最初のうちは。
お互い遊ぶ余裕のある時に2人だけで楽しい時間を共有する「恋愛」と、子育てを含む「結婚生活」とでは、大きな差がある。
その差はやがて二人の心にストレスとして溜まっていった。
いや…もしかすると、赤ん坊の心にも溜まっていたのかもしれない。
赤ん坊が、病気になったのだ。
しかし、Dさんさちはその病気を放置し、赤ん坊を見殺しにした。
いわゆる虐待…犯罪だ。
ただそのころはまだ、今ほど子どもの人権意識が高くなかったこともあってか、二人の犯行が露見することはなかったという。
赤ん坊が死んだことで二人の心は晴れたのかといえば、当然そんなことはない。
自分たちの赤ん坊を、自分たちの手で殺したという事実は二人に重くのしかかった。
しかし不思議と、別れようとは思えなかったという。
そんなことが起きてから十数年経過した後のこと…。
夫婦どちらからでもなく、子どもを作ろうかという話になった。
十数年前の二人は若かった。
仕事も不慣れだったので毎日に余裕がなかったし、周りの学生友だちが楽しく遊んでいる中、遊ぶ時間がないというのもストレスだった。
しかし、そのころとは違う。
仕事にも十分慣れ余裕が出てきたし、若い時のように遊びたいという気持ちが湧くこともなくなった。
だから、二人は再び出産にチャレンジした。
赤ん坊は無事生まれ、すくすくと育っていったという。
数年経ち…子どもがようやく言葉を話せるようになったころのこと。
子どもが病に倒れた。…最初の子どもと同じ病気だったという。
あのころと違うのは、二人が見捨てるのではなく、助けようとしたこと。
二人は急いで子供を病院へ連れて行った。
…だが、無念なことに子どもを助けることは叶わなかったそうだ。
それだけではない。
子どもがこと切れる瞬間。夫妻には声が聞こえたのだという。
「子どもはいらない…子どもはいらない…」
それが、自分の子供の口から出た言葉なのか、それとも、一人目の子どもの霊がその場所に来ていたのか…それはわからない。
その声は、Dさん夫妻にしか聞こえなかったのだという。
その後、二人が子どもを持とうと考えることは、二度となかった。