マシマシ
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Tさんから伺った話だ。
彼は都内のIT企業に勤める独身男性で、その日は深夜までの残業で心身ともに疲れ果てていたという。
自炊する気力など到底なく、帰宅するなり、スマートフォンのアプリを開いた。
少しでも体を温めようと、近所の中華料理店から熱々のワンタンメンを注文したという。
ところでその中華料理店、ラーメン専門店との競争に勝つため、「マシマシ」や「アブラ」といったカスタマイズを受け付けていた。
空腹の絶頂だったTさんは、もちろん、迷うことなくマシマシを選んだそうだ。
三十分ほどで、無愛想な配達員がプラスチックの容器を玄関先で手渡していった。
立ち上る湯気と醤油の香りが、疲れた体に染み渡るようだったらしい。
リビングのテーブルで蓋を開けると、中には大量のワンタンが盛られていた。
さすが、マシマシ。
Tさんは、さて食べようかとレンゲを手に取る…、その時だった。
スープの表面に、いくつか見慣れないものが浮いていた。
半透明で白っぽく、長さは一センチほど。水分を吸ってぶよぶよと膨らんでおり、照明の光を反射して、てらてらと妙な光沢を放っていたという。
……ワンタンの皮が千切れたものだろう。これだけ大量のワンタンが盛られているのだから、ある程度皮が千切れていても当然だ。あるいは、マシマシということでワンタンの皮を大量に追加してくれたのかもしれない。
Tさんは最初、そう思ったらしい。
箸でつまみ上げてみると、薄く、柔らかい。
やはり、ワンタンの皮が千切れたものだ。
しかし、よく目を凝らすと、その表面には人間の指紋のような、細かい渦巻き模様が浮かんでいるように見えた。
もしかして――気づくと同時に、強烈に湧き上がる吐き気。
Tさんはラーメンを食べることなく、すべてゴミ袋に捨て、ゴミ袋を固く縛ってすぐさま廃棄した。
店にクレームを入れる気力もなかったという。
その白いモノは、長風呂をした後にふやけて剥がれ落ちた、指の皮に見えたそうだ。
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