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Sさんという女性が体験した話だ。

彼女は当時、恋人と別れた寂しさを紛らわすため、スマートフォンのマッチングアプリに登録していた。

何人かとやり取りをする中で、一人、非常に誠実そうな男性と意気投合したという。

アプリ上のプロフィール写真は、白い歯を見せて爽やかに笑う、清潔感のあるものだったそうだ。

メッセージのやり取りも弾み、週末に会う約束を取り付けた。

当日、指定されたカフェに現れた彼は、写真の印象通りの好青年だったようだ。

ただ一点、どうしても気になるところがあった、という。

彼が微笑むたびに見える、その歯。

写真では真っ白だったはずの歯が、まるで一本一本、根本から墨汁を垂らしたかのように、まだらに黒く染まっていたのだ。

それは虫歯のようにも見えたが、もっとこう、ぬめりとした質感を伴う、生理的な嫌悪感をかき立てる黒さだったという。

そして、注文したパスタを食べている時だ。彼の口元から、かすかに、しかしはっきりと奇妙な音が聞こえてきた。

コリ……。

――乾いた不快な音。

……コリ……コリ……。

まるで、細かい砂利でも噛み砕いているかのような音だった。

しかし、食べているのは柔らかいパスタだ。

コリ……コリ……。

その音は食事が終わるまで、断続的に響いていたという。

佐藤さんはすっかり気分が悪くなり、体調不良を理由に、早々にその場を切り上げた。

後日。

SさんがSNSを利用していると、タイムライン上にとある動画が流れてきた。

その動画は、大自然の中で一人の青年が、食事をしているというものだった。

その青年が属するスピリチュアル系の小規模カルト集団は、大自然のオーラのエナジーを体内に採り込むため、食事とともに砂を食すのだという。

実際、その青年が食べている食事にも、砂が混ぜられているとのこと。

青年は、満足そうに食事を食べていたという。

コリ……コリ……コリ……コリ……と。

【怪談】【怖い話】

Creator

田中一広

五感を刺激する異界体験クリエイター。 企画/シナリオ/グラフィック/作曲/プログラムまで一人でこなし、アナログとデジタルの垣根を飛び越え独自の世界観をもった「異界体験」を作り上げるゲーム作家。 五感をゆさぶる異界へと案内します。

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