オンラインミーティング
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これは、都内のデザイン会社で働くUさんという女性から聞いた話だ。
彼女の会社では在宅勤務がすっかり定着し、日々の打ち合わせはほとんどオンラインで行われるという。
モニターに並ぶ、見慣れた同僚たちの顔。
それが彼女の日常だった。
しかし、ある時から、特定の先輩社員であるKさんが映る画面に、奇妙な現象が起きるようになったらしい。
他の参加者の映像は鮮明なのに、Kさんの顔だけが、ぐにゃりと歪む。
輪郭が不定形にゆらゆらと揺れ、表情がうまく読み取れない。
水面に映った像が、波で歪んだようだったという。
異常は映像だけではなく音声にも生じた。
Kさんが発言するたび、ノイズが発生する。
Kさんの声に重なり、ヘッドフォンの奥から「ざらざら…じりじり…」という音がするのだ。
とはいえ、単にKさんの回線の問題かもしれない。
あるいは、Uさんの回線の問題という可能性もある。
なので、Uさんはオンラインミーティングの際、ことさらそのことに触れようとはしなかった。
しかし、ある日の会議中、Uさんは決定的なものを見てしまったという。
Kさんが画面共有をしようと操作した瞬間、彼のカメラ映像が一瞬だけ、真っ暗な画面に切り替わった。
そして、その漆黒の中央に、べったりと紅を引いた唇の形をした赤いシミが、じわり…、と浮かび上がったように見えたそうだ。
だがそれはすぐに消え、また、あのぐにゃりと歪んだKさんの顔に戻った。
さすがに気味が悪くなったUさんは、一番親しい同僚にLINEで相談してみたという。
すると同僚は、「あくまで噂なんだけど…」と、会社に伝わる古い噂話を教えてくれたそうだ。
現在Kさんは、会社が社宅として用意しているアパートに暮らしているのだという。
そしてKさんが利用している部屋は、数年前の時点では、別の社員…女性社員が住んでいた。
その女性は、当時、執拗なストーカー被害に悩まされており、最終的には会社を退社してしまったらしい。
とはいえ会社側も何もしなかったわけではなく、カウンセラーや顧問弁護士が対応を行った。
そこまでの対応を行ったのは、その女性とオンラインミーティングをする度、画面が歪んだり、音声にノイズが入ったりといった現象が発生したからだそうだ。
それはつまり、Kさんの画面と同じような現象が、その女性にも発生していたということ。
ストーカー被害という状況と、オンラインミーティングに発生する障害。
こうした状況を踏まえて、会社側は社宅に、盗聴器が仕掛けられているのではないかと考え、積極的に対応した。
しかし、どこからも盗聴器は発見されなかったという。
盗聴器は発見されなかっただけではない。
盗聴器の痕跡すら発見されなかった。
盗聴器は、電波を用いて音声を発信する。
このため、盗聴を行っているのであれば、盗聴器そのものが発見できずとも、盗聴器の発する電波を感知することはできるはず。
だが、電波の痕跡すら発見できなかった。
にもかかわらず、それからも画面の歪みや、ノイズといった現象は発生し続けたのだ。
最終的にその女性は、視界の歪みと幻聴を訴えるようになり、心身を病んで退社することになったのだという。
画面の歪みやノイズを感じていたのは、女性とオンラインミーティングしていた別の社員だ。
ただその時、女性も視界が歪んだり、ノイズのような幻聴を聴いていた…ということなのだろう。
だから、Kさんにも同じ現象が発生しているのかもしれない。
とはいえ、誰も、どうすることもできない。
「だから、見て見ぬふりしてるんだよね、みんな」…Uさんの同僚はそう語っていたという。
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