フレンドギフト

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これは、都内の大学に通うIさんから聞いた、奇妙な体験談だ。

Iさんは当時、スマートフォン向けオンラインゲームに熱中していた。

友人たちとチームを組み、協力して強大なモンスターを討伐するというMMORPGタイプのゲームだ。

そのゲームには、フレンド登録したプレイヤー同士で一日に一度アイテムを送り合える、「フレンドギフト」という機能があったという。

異変が起きたのは、ある日のこと。

彼は自分のフレンドリストに、まったく見覚えのないプレイヤーがいることに気が付いた。

プレイヤー名は「no_name」。

アイコンは真っ黒に塗りつぶされている。

いつ、どうやってフレンドになったのか、皆目見当もつかない。

しかも、フレンドになっただけではない。

「no_name」からのフレンドギフトまで送られてきていたのだという。

フレンドギフトを確認したところ、届いていたのは、ゲーム内で使えるポーションや装備品ではなかった。

アイテム名は、ただ「ぬるぬるとした肉塊」。

アイコン画像は、赤黒い粘土をこねたような不定形で、よく見ると、まるで呼吸しているかのように、ゆっくりと蠢いているように見えたそうだ。

Iさんはすぐにその「ぬるぬるとした肉塊」を処分しようとした。

しかし、そのアイテムは売却も使用もできない。

仕方なくIさんは、見て見ぬふりをすることにした。

だが、そんなIさんをあざ笑うかのように、「no_name」からのフレンドギフトは、毎日欠かさず届いたのだという。

「ぬるぬるとした肉塊」の個数は確実に増えていき、アイテムボックスを圧迫していく。

じっとりとした、厭な存在感を放ちながら。

さすがにIさんは、アプリの運営会社に連絡した。

すると、すぐに運営側が対応してくれ、アイテムボックスから「ぬるぬるとした肉塊」がなくなり、フレンドリストから「no_name」も削除された。

おそらく、「no_name」は悪質なプレイヤーだったのだろう。

ゲームプレイヤーの中には、残念ながら、おもしろ半分で、あるいは他プレイヤーやゲーム運営企業への嫌がらせ目的で、ゲームをハッキングするような悪質なプレイヤーも存在するのだ。

だが…その後Iさんは、大学のゲームサークルの先輩からこんな話を聞いた。

数年前、とあるプレイヤーがゲーム内で話題になったのだという。

そのプレイヤーはゲーム内の人間関係で深刻なトラブルを抱え、他のプレイヤーたちから執拗な嫌がらせを受けていたらしい。

嫌がらせはゲーム内の行為だけに留まらず、メールやSNSなど、現実の行為にまで及んだ。

この結果、そのプレイヤーは自殺した。

しかも、ただの自殺じゃない。

ゲームをしながら、自殺したのだ。

そのプレイヤーの死体が発見された際、スマートフォンを強く握りしめており、その指先は、彼は自分のまるで何かを必死に掻きむしったかのように、爪が剥がれ、赤黒い肉塊となっていたという。

もちろん、自殺したプレイヤーとIさんの出来事との間に、何か関連性があるわけではない…。

【怪談】【怖い話】

Creator

田中一広

五感を刺激する異界体験クリエイター。 企画/シナリオ/グラフィック/作曲/プログラムまで一人でこなし、アナログとデジタルの垣根を飛び越え独自の世界観をもった「異界体験」を作り上げるゲーム作家。 五感をゆさぶる異界へと案内します。

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