コンビニ夜勤

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これは、都内でフリーターをしているYさんから聞いた話だという。

彼は数年前、生活費を稼ぐため、とある歓楽街の外れにあるコンビニエンスストアで、深夜勤務のアルバイトをしていたという。

客足が途絶える午前2時から5時頃までは、バックヤードでの商品補充や清掃が主な業務となる。

その店の冷蔵庫は「ウォークイン」と呼ばれる、歩いて入れるタイプのもので、飲料や弁当の保管はそこへ行う。

その晩、Yさんはいつものようにその中でドリンクの補充作業をしていた。

すると、ふと、奇妙な音がするのに気が付いたという。

「じゅる…じゅるる…」

モーターの低い駆動音に混じって、何か粘度の高い液体が、細い空間を流れるような音。

音がするのは、冷蔵庫の一番奥。廃棄する弁当や惣菜を一時的に溜めておく、大きなコンテナが積まれたあたりからだった。

気のせいかもしれない…その日はそう思って流したYさんだったが、その日から、冷蔵庫に入るたびその音を聞くようになったという。

さすがにYさんも、音の正体を突き止めようと廃棄コンテナの下を見た。

するとそこには、黒く油ぎった、ぬるりとしたシミが広がっていたそうだ。

そのシミからは、腐った生ゴミと、鉄錆が混じったような、むっとする異臭が漂っていたという。

Yさんはそのシミを洗剤でこすり落としたが、翌日になると、また同じ場所に、シミが現れる。

耐えかねたYさんは、店長にそのことを相談してみた。

すると店長は、面倒くさそうにこう言ったそうだ。

「そのシミ、落としても取れないんだよね」

なんでも、そのシミはコンビニが建った時から続いているのだという。

いや、もしかすると、その前からあるのかもしれない。

というのも、コンビニが建つ前は、小さなラーメン屋だったらしい。

あまり人気のあるラーメン屋ではなかったらしく、ラーメン屋の店主は深夜に泣きながら、余ったスープや油を廃棄し続けていたという。

もちろん昔の話だし、事実だとしたら違法なので、やっていたとしてもラーメン屋の店主もバレないよう気を使っていたはずだ。

だから、証拠があるわけじゃない。

ただ、夜になると異臭がするという苦情は、近所から上がっていたようだ。

なんでも、腐った生ゴミと、鉄錆が混じったような、むっとする異臭だったという。

最終的に、そのラーメン屋は店を畳むことになった。

ラーメン屋の開店しない日が何日か続いた後、店内から悪臭が漂い、店主の死体が発見されたらしい。

自殺だったようだ。

「だから、そのラーメン屋が捨てていたスープや油が、染み出てきちゃってるんじゃない?」

店長はそこまで言うと、Yさんに、「ま、でも、んなことあるわけねーから、気にしない方がいいよ」と告げた。

「よくわからないけど、なんか臭いとか、なんか汚れているとか、どこでもあるでしょ?それが全部心霊現象だとかだったら、世の中怖すぎでしょ」

そう言って笑っていたという。

【怪談】【怖い話】

Creator

田中一広

五感を刺激する異界体験クリエイター。 企画/シナリオ/グラフィック/作曲/プログラムまで一人でこなし、アナログとデジタルの垣根を飛び越え独自の世界観をもった「異界体験」を作り上げるゲーム作家。 五感をゆさぶる異界へと案内します。

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