天井

[Posted:

「シミュラクラ」という現象がある。

人間は、3つの点が集まった図形を見ると、人の顔と感じてしまうという話だ。

だから、木造住宅の天井の木目にある「節」が3つ集まっていると、そこに人の顔が現れているように思えてしまう。

本人にとっては心霊現象だが、実際には「思い込み」ということになる。

都内の古い木造アパートに住むIさんも、最初は「思い込み」と考えたそうだ。

彼がその部屋に住み始めて半年ほど経った、梅雨時のこと。

ふと寝室で横になっていると、天井の隅、壁紙の継ぎ目が黒ずんでいることに気が付いたという。

よく目を凝らすと、黒い染みが3つあり、その周りに平仮名の「し」の字状に線のような染みが存在していた。

Iさんは思わず、「顔のようだ」と感じたらしい。

「もしかして、この家は事故物件だったかな」とも思ったらしいが、「シミュラクラ」という現象について知識のあったIさんは最終的に、「心霊現象のわけがない、思い込みだ」と考えたという。

しかし、3日ほど経ったころ、再び染みを見てみると、模様が変わっているように見えた。

3つの穴のうち、ちょうど目に当たる部分の染みが三角形に近い形状になっており、心なしか「怒っている」ように見える。

とはいえ、以前の模様の形を細かく覚えていたわけではない。

だから、記憶違いなのだろう。

そう思ってその日は気にしないことにしたそうだ。

しかし、それからさらに数日経って改めて染みを見ると、確実に形状が変わっていた。

いや、現在進行形で、形状がもぞもぞと変わっていく。

Iさんは極力顔を近づけ、じっくりと目を凝らし、その染みを観た。

するとそれは、体長1ミリにも満たない小さな虫の、おびただしい群れだったそうだ。

気味が悪くなり、すぐに殺虫スプレーを吹きかけると、黒い群れは「ぱらぱら…」と乾いた音を立てて床に落ちてきた。

これで安心したのも束の間、翌日、同じ場所を見ると、虫は以前とまったく同じ密度で、再び天井の隅を真っ黒に埋め尽くしていたという。

Iさんはさすがに我慢ならなくなったそうだが、すぐに引っ越せるような金銭的余裕はなかった。

だから彼は、虫など「思い込み」だと思うことにしたのだそうだ。

【怪談】【怖い話】

Creator

田中一広

五感を刺激する異界体験クリエイター。 企画/シナリオ/グラフィック/作曲/プログラムまで一人でこなし、アナログとデジタルの垣根を飛び越え独自の世界観をもった「異界体験」を作り上げるゲーム作家。 五感をゆさぶる異界へと案内します。

ぞくっ、とする怖い話

ぞくっ、とする怖い話

それは、誰かが体験した物語。
背中がぞくっとする、本当にあった怖い話…。

More read?

エアコン

[Posted:]

押し入れの奥

[Posted:]

コンビニ夜勤

[Posted:]

公園デビュー

[Posted:]