押し入れの奥

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これは、都内の賃貸マンションに住むAさんから伺った話だ。

Aさんがその部屋に越してきて半年ほど経ったころ。

深夜、布団に入ってちょうどうとうとするくらいの時間になると、決まって奇妙な音が聞こえてくるようになったのだという。

「カリ、カリカリ」

最初はネズミか何かだと思ったらしい。

実際、音は押し入れの奥から聞こえてくる。

ネズミがいてもおかしくはない。

だが、音は日によって違う。

ある時は「コツ、コツ」と、何か硬いもので木材を叩くような音に聞こえた。

またある時は「ゴソ、ゴソ」と、何かを探しているような……あるいは這いずっているような音だったという。

その押し入れは寝室にあり、Aさんは押し入れの中の取り出しやすい位置に布団を収納していた。

そして、布団の奥にはシーズンオフの衣類。

その奥には、昔のアルバムや、使わなくなった家電など、滅多に使わないものが詰め込まれていて、さらにその奥には、引っ越しの時に開封せずそのまま突っ込んだ荷物類が入っている。

そして音は、最深部の荷物のさらに向こう側かが聞こえていた。

何かがそこにあるのかもしれないが、確認するためには荷物をすべて出さなければならない。

さすがにそこまでするのは億劫で、Aさんは音の正体を確かめずにいた。

しかし、ある夜のこと。

いつもよりはっきりと音が聞こえる。

「トントン、トントン」

まるで、奥から誰かが襖をノックしているかのようだ。

その瞬間、Aさんの視界の端で、閉まっていたはずの襖が数ミリほどスッと開いていく……。

Aさんは飛び起きて電気をつけた。

だが、襖は固く閉ざされたままだった。

見間違い、あるいは寝ぼけていたのだろう。

Aさんは自分に言い聞かせたらしい。

ただその後、Aさんは近所の噂話としてこんな話を聞いた。

数年前、Aさんと同じ階の別の部屋で、住人が孤独死していたことがあったらしい。

その住人は大型犬を飼っていた。

発見が遅れたため、飼い主の亡き後、犬は数日間、部屋に閉じ込められるかたちになった。

発見時、犬はひどく衰弱しており、部屋のドアや壁には、外に出ようと必死に引っ掻いた無数の傷が残っていたそうだ。

【怪談】【怖い話】

Creator

田中一広

五感を刺激する異界体験クリエイター。 企画/シナリオ/グラフィック/作曲/プログラムまで一人でこなし、アナログとデジタルの垣根を飛び越え独自の世界観をもった「異界体験」を作り上げるゲーム作家。 五感をゆさぶる異界へと案内します。

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