エアコン
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これは、秋から冬へと切り替わるくらいのころに、Cさんが体験した話だ。
Cさんは、エアコンが備え付けられたアパートに住んでいた。
といってもアパートは築年数を重ねており、エアコンも相当な旧式。
とはいえCさんは、夏の暑さと冬の寒さをしのぐため、愛用していた。
電気代はそれなりにかかるが、暑さ寒さはそこそこしのげる。
エアコン代は払っていないのだから、御の字と考えていたという。
そんな中で、Cさんが億劫に感じていたのがエアコンの清掃だ。
業者に頼んでしまえば楽だが、備え付けの旧式エアコンが頼りのCさんにそんな金はない。
だから、シーズンの変わり目には自分でエアコンの内部清掃をしていたそうだ。
その時もCさんは、自分で内部清掃を試みた。
前面パネルを開け、ホコリまみれのフィルターを外す。
その奥にある、銀色のフィンにも、黒いホコリがびっしりと付着していた。
古い歯ブラシでそのフィンの隙間をこする。
すると、ふと、指先に妙な感触を覚えた。
ホコリにしては、粘り気があり、妙に重い。
よく見ると、それは黒い髪の毛の束だった。
フィンの隙間に、まるで粘土のようにねじ込まれていたという。
Cさんはその部屋に一人暮らしで、部屋に通ってくるような恋人もいなかった。
そして、Cさん自身の髪は短い。
だから、エアコンに髪の毛の束が詰まるようなことはないはずだ。
Cさんは気味悪く思いながらも、ピンセットでその髪の束をかき出し、掃除を終えた。
その夜のこと。
冷え込んできたため、暖房を入れようとCさんはエアコンのスイッチを入れた。
すると、「ウィーン」という動作音に混じり、エアコンの内部から「キリ、キリ、キリ……」と、何かが擦れるような、乾いた音が聞こえ始めた
まるで、ファンに何かが引っかかっているかのようだ。
Cさんはエアコンを止め、再びエアコンのパネルを開けた。
懐中電灯で送風口の奥を照らす。
すると、奥で回転する筒状のファンの軸に、取り残した黒い髪の毛が、数本、きつく巻き付いているのが見えた。
気持ち悪い……そう思ったCさんは、なけなしの貯金を切り崩し、専門の業者にクリーニングを依頼することにしたそうだ。
気持ちの悪さから、絶対に自分で処理したくなかったのだという。
クリーニング当日、作業に来た業者のスタッフがエアコンの状況を観て、あくまで世間話としてこんなことを口にした。
その業者が以前、クリーニングを請け負った部屋は、荒れ放題の部屋だった。
部屋の主人である女性はどうも精神的に参っていたようで、掃除や洗濯、料理といった日常の家事全般が不可能な状況に陥っていたようだ。
だから、部屋の中にはスーパーのビニール袋やペットボトル、インスタントの袋やゴミ袋、段ボールや雑誌といったものが一面に散らばり、あるいは積みあがっていた。
ただそれだけではなく、日常的にどうやら髪を自分で切っていたようで、そこここに髪の毛が散らばっていたそうだ。
さらに髪の毛は、エアコンの中にも大量に詰まっていた。
そしてその女性は、どうやらその後、自分で命を絶ったのだという。
もちろん、業者として本来ならこんな話はしない。
ただ、Cさんの部屋のエアコンの状況とあまりに似通っていて、話さずにはいられなかったのだそうだ。
なお、「この部屋ではないので、安心してください」とも言われたという。
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