生成されてはいけないもの
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都内のメーカーに勤務するFさんの話。
趣味というほどのものでもないが、Fさんはスマートフォンのショート動画を見ることが好きだった。
通勤時や就寝前、あるいはちょっとした暇時間。
ついついアプリを起動し、ショート動画を見てしまうのだという。
何か目的の動画があるわけではない。
なんとなしに、指一本で次々と動画をスワイプしていく。
ダンス、料理、ペット、ライフハック……。
思考を止めて眺めるその時間は、Fさんにとってほどよい癒しになっていたという。
ただ、その夜はちょっと違った。
ある一般人の女性が投稿した動画。
流行りの歌に合わせて、自室でダンスを踊っている、よくある動画だ。
だが、女性が動くたびに、その顔が歪む。
…といっても、何も不思議な話ではない。
女性の顔に対して、「小顔補正」や「デカ目」、「色白」といった画像修正エフェクトがかかっているのだ。
ただ、女性の動きをAIが読み取って自動的にエフェクトをかけるため、動きに対して修正が若干遅れてしまう。
だから、顔が歪んでいるように見える…のではないかと思ったそうだ。
しかし、よく見ると違った。
女性の背後――部屋の奥にある、半開きのクローゼット。
そのクローゼットに女性の顔が重なった時だけ、大きく歪む。
より正確にいうなら、半開きの扉から伺える、クローゼットの内部と女性の顔が重なった時。
といっても、クローゼットの内部は何も見えない。
ただ暗闇が広がっている。
その暗闇と女性の顔が重なった時、女性の顔は大きな歪みを見せるのだ。
Fさんは背筋が寒くなり、慌てて次の動画へとスワイプしたという。
とはいえ、後になって、偶然に過ぎないのではないか…と思い直したという。
そこで、友人との飲み会で、笑い話として話してみたそうだ。
すると、友人は真顔でこんなことを言った。
「顔認識AIは、世界中の膨大な画像をもとにの学習している。その学習とは、状況が近いものを覚えていくというもの。だから、たとえば誕生日パーティーの映像を生成しようとすると、自動的にケーキが写り込むことがある。誕生日という状況に、バースデーケーキはつきものだもんな」
それがどうかしたのか?とFさんが突っ込むと、
「たとえば、深夜に映した心霊写真は、真っ暗な中に異形のものが写り込むよな?もちろん、AIの学習データは、学習データとして相応しいものを選別しているんだろうけど、心霊写真かどうかなんて、選別しようがないだろ?ただ、AIは、心霊写真だけが持つ特徴を学習することができるのかもしれない。だから、本来生成されちゃいけないものが生成されたってことも、ゼロじゃないかもな」
友人はそこまで話すと、「な〜んてな!」といって笑ったそうだ。
![Wuah!-[ワー!]](/images/20250800/logo.png)



