渋滞【ぞくっ、とする怖い話】
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実話怪談を収集していると、中にはやや短めの逸話も存在する。
今回はそんな短めの逸話からひとつ紹介したい。
Dさんが家族と一緒にお盆の帰省ラッシュに巻き込まれた時のこと。
車がピクリとも動かない大渋滞だったらしい。
花火に昆虫採取に川遊びに……と、実家で思いっきり遊んだせいか、家族は皆眠りについていた。
しょうがなくDさんは、ラジオで音楽をかけながら、景色をぼうっと見つめていたそうだ。
家族に配慮して、音量は限りなく小さくしていたという。
すると、遠くの建物でぼんやりと何がが動いていた。
目をこらすとそれは人で、手を振っているように見える。
じーっとその人を見ていると、なんとなくDさんは、その人が自分に手を振っているような気がした。
しかし、ぼんやりとしか見えないほど遠くにいる。Dさんに手を振っているわけがない。
そう思ってDさんは目をそらした。
するとその瞬間、ラジオから声が響いた。
「……無視……しないで……」
そんなはずはないと思って耳をすますと、やはりラジオから声が聴こえる。
「……無視……しないで……よ……」
その次の瞬間のことだ。
「前!前!」と言う妻の声に前を見ると、渋滞が進み始めていたのでDさんは急いでアクセルを踏み込んだ。
後で奥さんや家族にその体験を話したが、誰もそんな声聞いていないという。
それもそのはず。
車のラジオはスイッチが入っていなかったそうだ。