証明写真【ぞくっ、とする怖い話】
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Aさんの自宅と最寄り駅の途中にはスーパ―マーケットがある。
だから、残業がない時は帰りの道すがらお弁当やお惣菜が買えて便利なのだという。
しかも、帰りの時刻が大体タイムセールの時刻に重なるので、懐にも優しいのだそうだ。
そのスーパーマーケットには、一台、証明写真機が置かれている。
硬貨を投入し、外で待っていれば数分後に写真が出てくるというよくあるタイプ。
置かれているのはスーパーマーケットの中ではなく、外だった。
ジュースの自動販売機と一緒に並んで置かれているそうだ。
Aさんも就職活動中は、履歴書に貼る写真を、駅に行く途中その証明写真機で撮影したという。
外に置かれているため、早朝や深夜であっても撮影できる。
それが、バイトしながら就職活動していたAさんにとって嬉しかったそうだ。
もちろん、就職してからその証明写真機を使うことは一切なかった。
そんな、証明写真機についてのエピソードだ。
その日は残業が多かったため、帰りが終電ギリギリになってしまったという。
自宅の最寄り駅についた時には、1時を回っていたそうだ。
さすがにスーパーマーケットは閉店しているため、Aさんは駅の近くにあるコンビニに立ち寄り、サンドイッチと朝食用のパンを買った。
コンビニに立ち寄った場合も、自宅に帰るためにはスーパーマーケットのあるルートを通って帰ることになる。
商品が入ったコンビニの袋をぶら下げたAさんが歩いていると、やがてスーパーマーケットが姿を現した。
スーパーマーケットは閉店しているため、もちろん、明かりはついていない。
……かと思いきや、違った。
スーパーマーケットの店内は暗いが、証明写真機の明かりがついていたのだという。
その証明写真機は、カーテンを開けて撮影ブース内に人が入ると、明かりがつくタイプだった。
つまり、証明写真機の中には誰か人がいるということになる。
「こんな時間に誰だろう?めちゃくちゃ夜型の人だな……」
そう思ったAさんは、なんとなく、どんな人が撮影しているのか興味を覚えたという。
そこで、自動販売機でジュースを買うふりをして、証明写真機に近づいていった。
どれを買うか迷うフリをしながら、証明写真機の方を見る。
カーテンは閉じられているが、確かに明かりが漏れている。誰か中にいるのだ。
カーテンの高さは、中で腰かけている人の膝の高さくらいまで。なので、外からでも撮影している人の足は見える。
しかし……、見えるハズのその足が、見えない。
いや、見えないのではない。ない。中には誰も入っていないのだ。つまり、無人。
多分、虫がセンサーの付近を取んだとか、そういったなんらかの理由で電気がついているのだろう。
そう思ったAさんは、自動販売機でコーヒーを買って帰ろうとした。その時だ。
「撮影を終了しました。これから現像を開始します。外へ出てお待ちください」
深夜の静かな空間に、そう、証明写真機の音声が響いた。
響いた後、証明写真機の明かりが暗くなった。カーテンは一切動いていない。証明写真機から誰も出てこない。出てくる気配もない。証明写真機の周りにいるのはAさんだけだ。辺りはしんと静まり返っている。
その証明写真機は撮影後、写真が出てくるまで3分ほど現像の時間がかかるそうだ。
つまり、あと3分経つと、写真が出てくる。
その写真には、証明写真機の中が写っている。
その写真には、何が写っているのだろう?
証明写真機の中には、今何がいたのだろう?
そう考えたAさんは、先ほどまでの興味が一気に失せ、恐怖で逃げ出したそうだ。
家に無事帰りつくまで、生きた心地がしなかったという。
もちろん、翌朝その証明写真機を確認するなんてこともなかったらしい。