訪れたもの【ぞくっ、とする怖い話】

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Kさんがまだ小学生のころの話。

Kさんの家は厳しく、両親から、夜9時には寝るように言われていた。

とはいえ、夜9時という時刻には全然眠くないということも多い。

ゲームを遊びたい時や、マンガを見たい時だってある。

だから、言いつけを破ってこっそり遊んでいた時もあったそうだ。

しかし、一度見つかってこっぴどく叱られてからは、ちゃんと床につくようにしていた。

ただ……その日はいつにも増して目が冴えていたという。

ベッドに入ってもまったく眠気がやってこない。

どれくらい時間が立ったんだろう……と時計を見ると、9時30分。

夜9時30分という時刻は、Kさんのお父さんが帰宅する時刻だった。

お父さんは帰宅するとまず、Kさんが寝ているかどうか確認にくる。以前も、夜9時30分に見つかった。

ちゃんと寝ていないと、今日も怒られるかもしれない……。

そう思ったKさんは、布団に潜った。

布団の中からでも、ドアの開く音は聞くことができた。

お父さんが近づいてくる足音も聞こえる。そして……Kさんの部屋のドアが開く音。

Kさんは、思わず息を潜めた。

じっ……と、視線を感じる。

どのくらいか時間が経って……やがて、声が聞こえた。

「*に**のか?」

小さい声で、何を言っているのかはわからない。

「**たい**?」

語尾の音が上がっていることから、何かを尋ねているのは分かる……。

問いかけに答えた方がいいのかな……。

そう思ったKさんは布団から顔を出そうとした。

しかし……。

次の瞬間、グラッ……と目が回るような感覚に襲われ……気が遠くなっていった。

気付いた時、Kさんはベッドの上にいた。顔は布団から出している状態。

ふと、時計を見ると……

9時25分だった。さっき、9時30分だったのに……?

そう思って時計を確認するが、どこにも異常はない。体中にいやな汗がにじんだという。

それからしばらくして、ドアが開く音が聞こえ、「ただいま!」というお父さんの声が聞こえたそうだ。

Kさんは怒られることなどまったく気にせず、お父さんの元に急いだという。

その日、一度目に経験した9時30分。部屋を訪れたのが何者だったのか。

そして結局何と言ったのか……。

Kさんは、今でもまったくわからないという。

【怪談】【怖い話】

この記事の作者

田中一広

ホラーゲーム作家。企画・シナリオ・グラフィック・楽曲・プログラムまでトータルでゲームを作る一方、ライターや講師としてゲームを伝える。もちろんゲーマーとして遊びもする人生ゲーム漬け野郎。妖怪博士。株式会社Wuah!地獄の代表取締役。

この記事が含まれるコーナー

ぞくっ、とする怖い話

それは、誰かが体験した物語。
背中がぞくっとする、本当にあった怖い話…。

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