バチ【ぞくっ、とする怖い話】
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Rさんが子どもの頃の話だ。
Rさんの住んでいた地域は、「田舎」という表現が相応しい場所だったという。
周囲は山に囲まれており、そこここに森や林があるといった環境。
施設や交通は整っておらず、生活の便は悪い。
そうした物理的な面だけでなく、昔ながら風習がまだ続いているといった文化・風習面についても、「田舎」的だったという。
たとえば、Rさんの通っていた小学校の裏山には、小さな社があった。
この社、子どもが5〜6人集まって遊ぶにはほどよい広さを持っていた。
とりわけ子どもたちに人気だったのが、社のそここに建てられた石柱。
柱というより、墓石や石碑といった方が正しいように思われる形状だったそうだが、文字が刻まれている様子はなく、墓石や石碑には見えなかったという。
なぜそんなものが子どもたちに人気だったのかといえば、柱の陰に隠れたり、柱を使って鬼から逃げたり……とまあ、かくれんぼやおにごっこをおもしろくしてくれるからだ。
だから、子どもたちは皆その社で遊びたがった。
しかし、大人たちからは禁止されていた。
理由は、「バチ」が当たるから。
最近は、子どもにやってはいけない行動を教える際、年齢にもよるかもしれないが、その理由を説明することが多い。
しかしRさんの地域では、まだまだ「バチが当たるからやめなさい」と言って聞かせることが多かったそうだ。
バチとは、「罰」がなまったもので、神や仏から与えられる罰のこと。
悪いことをしたから、天罰が下る、ということだ。
Rさんを含め、たいていの子どもたちは「バチが当たる」と理由で、社での遊びを控えていた。
ところが小学校五年生くらいのある日、Rさんの友だちが「社で遊ぼう」と言い出したそうだ。
上級生になったのだから、いつまでも親の言うこと聞いているなんてカッコ悪い、というのがその理由。
Rさんは一度は反対した。
しかし友達に「カッコ悪い」と煽られ、つい反射的に「じゃあ一度なら社で遊んでもいい」と言ってしまった。
そうしてその日の放課後、Rさんは、社で遊ぶことになった。
とはいえ、結局社に向かうのはRさんとその友達の2人。
2人では、かくれんぼもおにごっこもおもしろくない。
だからきっと、すぐ帰ることになるだろう。
ともすれば、「社に寄っただけ」といった状況になりそうだ。
それなら、「社で遊んだ」と怒られることもないだろう……Rさんはそんな言い訳を心の中で考えていたという。
しかし、実際には「社に寄る」ことにもならなかった。
社に着いた瞬間、友達がいきなり怯えて走りだしたのだ。
待ってくれとRさんが叫びながら追っても、友達はどんどん先にいってしまう。
やがて……友達は社から離れた大通りに飛び出し……その瞬間、車にはねられてしまった。
友達は救急車の中で「逃げたのに…逃げたのに…」と繰り返していたそうだ。
Rさんはその日の事を親に正直に説明した。
すると、「社には二度と近づくな」と言われたという。
Rさんの友達は一命をとりとめたが、別の場所に引っ越してしまい、それ以来一度も会っていないそうだ。