箱【ぞくっ、とする怖い話】
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Sさんの住む家はかなりの歴史を持っているという。部屋数はさほど多くないが、古めかしい日本家屋。その家の中で一部屋、まったく使ってない部屋があった。
それは、和室。おそらく寝室として作られたであろう部屋だ。この家に越してきた当初は、両親の寝室として普通に使っていた。
しかし、母親がその部屋で大けがをしたのをきっかけに、飼い犬がその部屋で突然死ぬなどの不幸が起きた。たまたま不幸が続いただけだろう……。そうは思ったものの、家族の間になるべくその部屋は使いたくないという気持ちが広がり……。
……やがてその部屋からは家具が片付けられ、まったく使わない部屋になったそうだ。とはいえ、そんな状況が続くのはあまりに不便。
そこでSさんの父親は、お寺の住職へ相談に行ったという。どうせ気のせいかもしれないし、お坊さんの説法で気が晴れるなら安いものだろう……と思ったらしい。
すると、住職はこう言った。
「その和室の下に、何か……悪い念が 込められているのを感じる。 例えば……恨みの念を強く持った者の 死体が埋められている…だとか……」
Sさんの父親もその場にいたSさんも、こんな答えが返ってくるとは思わなかったらしく、ぎょっとした。もっと違う答え──たとえば、気のせいだろうとか、祖先を敬えとか──が返ってくると思っていたそうだ。
家に帰って、Sさん達家族は相当悩んだ。和室の下を調べるとなると、床板を外す大仕事。時間もお金もかかる……。
……とはいえ、この下に悪い念が込められているだとか、ましてや死体が埋められているだとかいったことを想像すると気分が悪い。結局、和室の下を調べることにしたそうだ。
いざ床板を外してみると、地面に一か所、柔らかい部分があった。そこを掘り進んでみる。すると──
──そこからは、真っ黒な四角い箱が出てきた。
周囲に木彫りで植物の茎のような…蔦のような模様が描かれており、それなりに高級なもののようだ。
思い切って開けてみると、中には……
……何も入っていなかったという。
後日、その箱を住職のところに持っていくと、箱を見た住職の表情が曇った。
「これ……開けたのかね……?」
「はい」とSさんの父親が答えると、「箱に…何か…お札のようなものは ついてなかったかね…?」と住職。「そんなものはなかった」と答えると、住職は「そうか…」と落胆したような顔をしたという。
その後、和室で不幸が起こることはなくなったそうだ。ただ、あの箱がなんだったのか、何故住職があんな顔をしたのか……ずっと気になっているという。