閉鎖【ぞくっ、とする怖い話】
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Yさんには霊感がまったくない。これは、そんなYさんが経験した唯一の怪談だ。
Yさんは仕事帰りにいつも、職場の近くにあるカラオケボックスに寄るのが日課だった。お気に入りは9号室。部屋のサイズが一人で練習するのにピッタリなのと、お気に入りのカラオケ機種だったのがその理由だ。
だからYさんは、必ず9号室を指名していたという。給料日後の金曜日で時間にも懐にも余裕がある時は、朝まで利用するということもあったくらいだ。
しかし…ある時カラオケボックスを訪れると、9号室がなかった。
文字通り、ない。もともと9号室のあった場所が埋められ、壁になっていたのだ。
店員を捕まえて聞くと、利用者が少ないから閉鎖したのだという。利用者が少ないから閉鎖?…Yさんは納得できずに食い下がった。利用者が少なくっても、電源をオフにしておけばいい話。わざわざ埋めてしまう必要はないだろう。
するとその店員は、自分はアルバイトだから詳しいことはわからないという。お気に入りの部屋が利用できなくなって感情的になっていたYさんは、わざわざ店長が店に来るまで待って、店長を問いただしたそうだ。
すると…Yさんの想像どおり、利用者が少ないから閉鎖したというのはウソだった。
9号室で歌を歌うと、音声に変な声が混じるから…というのが実際の理由。たまたま利用した客がクレーマーだったという話ではない。9号室を利用したほとんどの客が、そう告げてきたのだという。
苦情を訴えてきた全ての客が同様に、音声に混じる声は、しわがれた老婆のような声だったと話していたそうだ。
逆に苦情を訴えなかったのは、Yさんくらいだったという。
Yさんは霊感を持っていないものの、なんとなく背筋が寒くなり、それからしばらくの間カラオケに行かなかったそうだ。