押入れ【ぞくっ、とする怖い話】
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Tさんの大学時代の話。その日は、サークルで仲良くなった先輩がTさんの住むアパートへと遊びに来る予定だった。
先輩は、予定より10分遅れてTさん宅についた。ドアを開けると、手にはコンビニの袋。「遅れちゃってゴメン、お詫びにジュース買ってきたわ」
そう、笑いながら先輩は炭酸飲料の入ったペットボトルを渡してきた。しかし、Tさんがペットボトルを受け取ろうとすると、先輩の顔がこわばった。
「…どうしたんですか…?」
Tさんが聞くと先輩は「いや、別に…なんでもない、ごめん」といって、そのまま部屋へと入っていった。
2人はそのままサークルの話をしたり、TVゲームをしたりして遊んだ。先輩の様子におかしなところはなかったので、Tさんも「きっと瞬間的に立ちくらみにでもなったんだろう」と気にしないことにした。しかし、しばらく遊んでいるとTさんはあることに気付いた。
先輩は、一見楽しそうにしているのだが、時折、チラッ、チラッ、とよそ見するのだ。必ず、同じ場所をよそ見する。
…その場所にあるのは、押入れだった。
「うちの押入れに何かあるんですか…?」
Tさんがそう聞くと先輩の顔色が変わった。先輩はしばらく言いづらそうにしていたが、覚悟を決めたように、やがてこう言った。
「…なあ、T…この部屋、嫌じゃないの?」
「えっ…?」
Tさんが聞きかえすと、「いや、いいんだ…また今度話すわ」そう言って先輩は黙ってしまった。その後、何か気まずくなってしまい、その日はお開きにしたという。
後日、Tさんは大学の食堂で先輩から声をかけられた。
「なあ、T、あの部屋、引っ越した方がよくないか?…あの押入れからなんか、嫌な感じがするんだよ…」その言葉に、Tさんは驚きで言葉を返せなかったという。
…実際、その押入れには奇妙な出来事があったのだ。
ある日Tさんは、押入れの中の天井の板が外れているのを見た。きっと元から、天井の板が外れていたんだろうと思い、元に戻しておいた。
その後、しばらくぶりに押入れの中の天井を見ると、閉めたはずの天井の板が外れている。確かに戻したはずなのに…でも、勘違いかもしれない。そう思ったTさんは、天井の板を元に戻した。
さらにその数日後…、押入れの中の天井を見ると、また、天井の板が外れていた。
さすがに、そんなはずはない。言葉にできない不安を感じたTさんは、今度は天井の板を元に戻すだけでなく、外れないようにガムテープでしっかり目張りをした。
それは、先輩と会う2日前のことだったという。
ガムテープで目張りをして以降、押入れを開いたことは一度もなかった。中がどうなっているのか、わからない…。
Tさんは先輩にそのことを話した上で、引っ越しを決意したそうだ。
引っ越すまでの期間も、引っ越しの最中も、Tさんは押入れを一回も開かなかったという。中に入れていた物は諦めたそうだ。「いいんです。どうせ大したものは入れてませんでしたから…」
引っ越した先のアパートでは、不思議な現象には遭遇しなかったそうだ。