窓にぶつかるもの【ぞくっ、とする怖い話】
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Tさんの家は、山の奥にあった。
鬱蒼とした木々に囲まれているため、日が暮れるとあたりは真っ暗だそうだ。
また、虫が多いのも悩みの種。
夏の夜、うっかり雨戸を閉めるのを忘れてしまうと、部屋の光に誘われた虫が窓にみっちりと群がってしまうらしい。
虫がいる状態だと雨戸を閉めるわけにもいかず、朝までその状態となる。
その光景だけでも異様だが、大きめの虫が窓にぶつかると、ドン!ドン!という音が響き、うるさくてかなわないという。
その日も、Tさんはついうっかり雨戸を閉めるのを忘れてしまったそうだ。
しかも運の悪いことに、家でこなさなければならない仕事を抱えていた。部屋の灯りを消して寝てしまうわけにもいかない。
しかたなくTさんは、虫がドンドンと窓にぶつかる中、仕事をこなした。
幸いTさんは、耳栓を備えていた。以前雨戸を閉め忘れた際うるさかったので、念のため耳栓を買っておいたそうだ。
そのため、音に関してはそこまでストレスではなかったという。
……しばらくの間は。
というのも、深夜1時を過ぎたくらいから、音がどんどん大きくなってきたのだ。
Tさんは、深夜に入って虫が活発になってきたのかな……くらいに思っていた。
ただ、耳栓の上からでもうるさいと思えるほど音が大きくなり……さすがにこれはおかしいと感じ、カーテンを開けて窓を見た……。
……すると、そこには虫など一匹もいなかった。
代わりに……真っ赤な手形が、窓にびっしりとついていた。
その光景に驚いたTさんは、仕事で参っていたせいもあってか、気絶してしまった。
気付いた時には、窓の外はすっかり明るくなっていたそうだ……。
改めて窓を見ると……手形など影も形もなかったという。