音の上では【ぞくっ、とする怖い話】
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Sさんの小学生のころの話。
Sさんの実家は新聞の宅配業を営んでおり、Sさんも新聞配達を手伝うことがあったという。
手伝うのはもっぱら学校が終わった後だったため、夕方に新聞配達をしていた。
大体、時刻は16時ごろだったそうだ。
16時ごろといえば、まだまだ遊び足りない子ども達に加えて夕飯の買い物をする母親の姿も見え始め、町はかなりにぎやかになる。
そんなにぎやかな様子を見ながら新聞を配達していると、パタッ…と人気が途絶える場所があったそうだ。
お寺の真向かいに建っていたマンション。
その付近には一切人の姿が見えない…。しかし、耳をすますと、かすかに、物音が聞こえる。
もそ…とか、がさ…という、ほんのかすかな、物音…。
…音の上では、人はいるのだ。
しかし、人の姿は、見えない。
日が暮れ始めているというのに、窓ガラスから明かりも漏れていない…。
その静かさ、不気味さは、寺の真向かいという場所もあって巨大な墓標のようにも感じられる。
子どものころの感受性の高さも手伝ってか、その付近を通る時、Sさんはいつも怖かったそうだ。
…結局、その付近が配達ルートになっていた1年の間、そこで人を見たことは一切なかったという…。