「MOON RISE EFFECT──It is room」【Day -1432】-ショートストーリー

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「あら…お隣に越してきたの?…よろしくね」…そう言われて観隆史は、即座に「よろしくお願いします」と返すことができなかった。「よ、よ、ろ…ねがい…ます」とごにょごにょ言うのが精いっぱい。

隣に住んでいるというその女性─北原朋美は、田舎から出てきた大学生を骨抜きにするには十分以上の魅力を持っていた。だから、田舎から出てきたばかりの大学生である隆史がガチガチに緊張するのは無理もない。

くりくりとした大きな瞳に長いまつげ、真っ黒なロングヘアー、適度に厚く、ぷるぷるとした唇。胸もおしりも大きいが、ウエストは締まっている。隆史は思わず朋美に見入った。じいっ、と。

隆史が緊張していると見たのか「学生さん?勉強頑張ってね」と優しく笑うと、「買い物に行かなきゃいけないので…。ごめんね、それじゃあ」と言い残し、去っていく朋美。その姿が消えるまで隆史は、足を踏み出すたびに揺れる朋美のヒップから目を離せなかった。

「こ…これからの大学生活、楽しみすぎる…」朋美のような美人の隣に住むことができた幸運に、隆は感謝した。

さらなる幸運が訪れたのは、大学のサークルの新歓コンパの翌日のことだった。隆史はコンパではじめて酒を経験し、ペースをつかむことができずガブ飲み。二日酔いに陥ったため、午前の授業をフケて布団で寝ていた。…すると、ドアをノックする音

隆史は大学の友達かな…と考えた。…というのも、実はコンパから家に帰るまでの記憶がない。いや、正確には「誰かの肩を借りて歩いていた」という若干の記憶だけがある。多分、誰かに家まで送ってもらったはず…。だから、自分を送ってくれた友達が迎えに来てくれたのか…と思ったのだ。

しかし、出てみると、なんと朋美だった。「これ…昨日作りすぎちゃって…よかったらどうですか…?」そう言って朋美が差し出してきたのは、シチュー鍋。中にはコンソメで煮込んだロールキャベツが入っていた。

二日酔いのムカつきの中、ロールキャベツの匂いを嗅いでしまった隆史は、吐き気がこみ上げそう…と心配になったものの、意外にもロールキャベツの匂いは優しく、隆史の食欲を刺激した。

「あ、ありがとうございます!」「よかった…!お鍋は洗わなくていいから、食べ終わったらビニール袋に入れてわたしの部屋の玄関のノブにでもかけておいてください」「いえ、あ、洗います!ちゃんと洗って返します!!」「あら…ありがとう…。それじゃあ、仕事にでかけるので…」

朋美が帰ると、隆史は早速ロールキャベツを食べてみた。塩味を押さえたコンソメの中、ほのかにショウガの香りが立ち上る優しい味わい。ロールキャベツも肉も、歯を使わずほぐれるほど柔らかい。思わず「おいしい…」という言葉が漏れた。

なんてオレはラッキーなんだ!…隆史はそう思ってロールキャベツのことを大学の友達に話したが、友達の中には「キモい!」と否定的な人間もいた。「キモい?」「うん、キモい。だって、隣の人って言ったって誰だか分からないわけじゃん?そんなの人からの手作り料理なんて、キモいでしょ?」「でも朋美さん、すごいキレいな人なんだぜ?」「いやいや外見じゃないでしょ」「そうかなぁ…」

隆史の田舎では、作りすぎた料理を分ける「お裾分け」はごく普通の習慣だった。しかし聞いてみると、「お裾分け」というものを経験したことがないという人間が少なくない。それが都会というものなのか…と隆史は思った。

数日後、大学から家に帰ると、部屋のドアノブにビニール袋がかかっていた。袋の中には、タッパーが入っており、タッパーの中にはチンジャオルースーと、小さく折り畳まれた紙。紙には「作りすぎちゃったんで食べてください」と書いてあった。

「朋美さんだ!」隆史はうれしくなって部屋に入るや否や、チンジャオルースーを食べてみた。上手に揃えて細切りされた牛肉とタケノコに、ややトロみがついたタレがかかっている。ロールキャベツの時と違って濃いめの味付けだが、中華にはこれくらいがちょうどいい。

あっという間に食べ終わり、ふと隆史は、お礼をしていないことに気がついた。お裾分けをしてもらったら、数日中に必ずお礼をする。田舎では、それがマナーだった。

明日、大学の帰りにお菓子かなんか買って、洗ったタッパーと一緒に渡そう。…そう思って隆史は眠りについた。

翌日、隆史が大学帰りにお菓子の詰め合わせを買って帰ると、またドアノブにビニール袋がかかっていた。袋の中にはまた同じタッパー。タッパーの中身はビーフシチューのようだ。

当然のように紙も一緒に入っていて、紙には「作りすぎちゃったんで食べてください」とある。

「まだお礼していないのに…なんか、悪いなー」…そう思った隆史は、ひとまずお礼だけでも渡そうと、朋美の部屋のドアをノックした。…しかし、朋美が出てくる気配はない。聞こえていないだけかもしれないので、念のためもう一回ノックしたが、やはり出てこない。出かけているようだ。

仕方なく隆史は自分の部屋に入り、ビーフシチューを食べることにした。トロトロになるまで煮込まれたお肉と野菜が、口の中でホロホロととろける。数日に渡ってよく煮込んだためだろうか、チンジャオルースー同様、濃い味付けだった。

「朋美さん…料理上手いな…」いずれは、朋美みたいな女性と結婚したい…そんなことを思いながら、隆史は床についた。

その翌日…隆史はドアをノックする音で目覚めた。ドアを開けると、そこには朋美の姿があった。

「あの、急に引っ越すことになって…。それでご挨拶に来ました」「えっ…、あ、そうなんですか?」「ええ、結婚することになって…」「え……あ……そ、そうなんですか…」ほのかな恋心を抱いていた隆史は軽いショックを受けた。

しかし、ショックになりながらもお礼を返さなければならないことを思い出し、「…あの…これ、料理のお礼です」「あら…いいのに…」「いや…でも、ロールキャベツとか、チンジャオルースーとか、ビーフシチューとか、沢山ごちそうになったし…どれもプロレベルで美味しかったですし!」

「えっ…?チンジャオルースーとかビーフシチュー…って…何のこと?

朋美はきょとん、とした顔だった。「えっ…?」「いや…ロールキャベツは確かにお裾分けしたけど…チンジャオルースーやビーフシチューは私じゃないわ。別の人じゃないかしら…?」「あ、そ、そうなんですか…」

「それじゃあ、引っ越しの作業がまだ残っているんで、これで…」そう言って引き返していく朋美を見ながら、隆史は、頭が真っ白になったような感覚を味わっていた。朋美じゃないとすれば、あのお裾分けは、誰!?

呆然とする隆史の目の前で、ドアの鍵がゆっ…くりと回っていく。そして、ガチャリ、と音を立てて鍵が閉まった。誰かが、外からドアにカギを入れて回したのだ。

「な…え…!?」パニックになる隆史。その前で、今度は逆方向にドアの鍵が回転、ガチャリ、と音を立てて鍵が開いた。そして…ドアが開く

「あぁぁ…今日はいてくれたんだ…たかしくん」「えっ…」

隆史は、それが誰かわからなかった。

「いやだ…彼女の顔を忘れちゃったの…?新歓コンパで家まで送ってあげたのに…。合鍵だってあの時くれたじゃない…?」「えっ…いや…そんなこと…」

わけがわからず、口の中でごにょごにょ繰り返すだけの隆史を前に、その女は朗々と話した。

「チンジャオルースーとビーフシチュー美味しかった?あたしねえ!好きな人とは一心同体になりたいタイプなの!だからねえ!チンジャオルースーには隠し味であたしの髪の毛を入れたのよ!ちゃんと食べやすいように細かく切っておいたから、全部食べれたでしょ?」

女の言葉は止まらない。「あと、ビーフシチューのお肉はね、実は、ちょっとあたしなの!足の裏のお肉をちょっと削って入れたのよ!心配しないで!足の裏なら切ってもあんまり痛くないんだから!!」

こみ上げる吐き気を抑えることができず、隆史は嘔吐した。

「MOON RISE EFFECT」は現在配信中!

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製品仕様

対象OS

iOS/Android/Kindle

価格

240円

【moonriseeffect】【脱出ゲーム】【アプリゲーム】

この記事の作者

田中一広

ホラーゲーム作家。企画・シナリオ・グラフィック・楽曲・プログラムまでトータルでゲームを作る一方、ライターや講師としてゲームを伝える。もちろんゲーマーとして遊びもする人生ゲーム漬け野郎。妖怪博士。株式会社Wuah!地獄の代表取締役。

この記事が含まれるコーナー

MOON RISE EFFECT(ムーンライズエフェクト)

ストーカーの襲撃を朝まで耐えきれるか…?
衝撃のサイコホラーゲーム。

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