自動販売機【ぞくっ、とする怖い話】

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夏の熱帯夜のことだった。

深夜作業していたTさんは、無性にのどが渇いた。

しかし残念なことに冷蔵庫の中はからっぽ。

インスタントのコーヒーやお茶を入れることはできるが、できれば冷たいものが飲みたい……。

そこでTさんは、近所の自動販売機まで飲み物を買いに行くことにした。

コンビニで夜食も一緒に買う…というのも考えたが、コンビニまでは結構距離がある。そこで、手近な自動販売機で済ませることにしたのだという。

Tさんの家は住宅街の中にあるため、人通りはもちろん車通りもなく、とても静かだ。

他の家は灯りを消すか雨戸を閉じているため、街灯以外の灯りがなく、かなり暗かった。

そんな中Tさんは、とぼとぼと自動販売機まで向かった。

自動販売機といえば、たいていコカコーラだとかサントリーだとかいった飲料メーカーのロゴがペイントされている。

しかしその自動販売機にはメーカーのロゴがなく、赤一色で塗り潰されていた。

メーカーのロゴの代わりに、全品100円!と白文字で描かれている。販売している商品は統一感がなく、有名メーカーのものからコレどこのメーカーだよといったレベルものまで様々。

Tさんは自動販売機に100円を投入し、炭酸系の栄養ドリンクのボタンを押した。

これからもうひと頑張りする予定だったので、カフェインとビタミンの力を借りようと思ったのだ。

ボタンを押すと、ガコッと自動販売機の中で缶の動く音がした。

……しかし、取り出し口に缶が落ちてこない。

しばらく待ってみても缶が出てこない……。

自動販売機を叩きたい衝動にかられたが、何せ時間帯が深夜。

大きな音が出せないので、そーっと自動販売機を揺すってみたそうだ。

……だが、やっぱり缶は落ちてこない。

やっぱり、叩いてみようか……。

そうは思ったものの、深夜ということがどうしても気になる。

仕方なくTさんはかがみこみ、自動販売機の取り出し口に手を突っ込んで、中を探ろうとした。取り出し口の直前で引っかかっているだけかもしれない。

すると……「にちゃっ、」という感覚があった。

何かのひき肉に触れたような、柔らかく、べとっとした感覚。

気色の悪い感覚にTさんはおどろき、思わず手をひっこめた。深夜にもかかわらず「ひぃっ!」という悲鳴まで上げてしまったという。

恐らくこのひき肉のようなものにひっかかって、飲み物が出てこないのだろう。

手の匂いを嗅いでみると、脂肪臭い中に腐敗臭を感じる、イヤーな匂いがした。

Tさんはそのまま引き返し、家に着くと急いで手を洗った。その夜は、仕方なく暖かいお茶でガマンしたそうだ。

気持ち悪さを感じたTさんは、その後、その自動販売機を使うことはなかった。

そのまま何カ月/か経つと、自動販売機は撤去されてしまったという。

【怪談】【怖い話】

この記事の作者

田中一広

ホラーゲーム作家。企画・シナリオ・グラフィック・楽曲・プログラムまでトータルでゲームを作る一方、ライターや講師としてゲームを伝える。もちろんゲーマーとして遊びもする人生ゲーム漬け野郎。妖怪博士。株式会社Wuah!地獄の代表取締役。

この記事が含まれるコーナー

ぞくっ、とする怖い話

それは、誰かが体験した物語。
背中がぞくっとする、本当にあった怖い話…。

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