物音【ぞくっ、とする怖い話】
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フリーターのHさんが経験した話だ。
Hさんはアパートで一人暮らしをしている。誰かいないと寂しく感じるという性格ではないため、一人きままに生活していた。しかし、ある時そのきままな生活が崩された。
バイト先の先輩が、頻繁に遊びに来るようになったのだ。
最初は一週間に一度遊びにくるくらいだったのが、やがて3日に一度くるようになり…。やれ飲み会だ、ピザをおごってやるだと理由をつけては泊まるようになり…やがて同居に近い状態になってしまった。
先輩ということもあって最初は遠慮していたHさんも、やがて限界に達した。
「あの、先輩…申し訳ないんですけど、さすがに居候されるのは困ります…」
そう言うと、先輩の顔色が変わった。先輩の顔から血の気が引いて真っ青になり、ガタガタと震え始めたのだ。
「頼むよ…今日も泊めてくれよ…」
「どうしたんですか? 先輩も家あるじゃないですか…?」
「帰りたくないんだよ、家に…」
先輩のあまりの怯えように、Hさんは借金取りにでも追われているのだろうか、と思ったそうだ。
もしそうだとしたら、いずれヤクザがHさんの家にまで来るかもしれない。…そう思ったHさんは、先輩をきつく問いだたした。
すると…先輩は、物音が聞こえて怖いのだという。
柱がきしむ…いわゆる「家鳴り」のような音ではない。階段を昇ってくる音だそうだ。
先輩の家もアパートで、先輩の部屋は2階の一番奥。他の部屋は現在誰も住んでいない。だから、誰かが訪れるとすれば、先輩の部屋以外ありえない。
しかし、階段を昇ってきているその誰かは、先輩の部屋までは来ないらしい。必ず途中で足音が途切れてしまうのだ。ただ、階段を降りる音は聞こえない。階段が鉄でできているので、たとえ奥の部屋であっても足音を聞き逃すことはないはずなのに…。
しかもその足音、毎日1歩ずつ増えているのだという。つまり…近づいてきているのだ。
なんとかしなきゃと思った先輩は、思いきって足音がした時に扉を開け、表に出てみた。すると…
誰もいなかった。
ただ、確実に足音を聞いた感覚があったので、念のため階段の方をカメラで撮影してみたそうだ。
すると…階段の辺りにまっ黒な影が写っていたという。だから、家に帰りたくない…先輩はそう繰り返すだけだった。
結局その先輩は、それから2週間ほどHさん宅に泊まり込んだ。
ただ、Hさんの両親が実家から出てくるというイベントがあり、そのイベントを機会にHさん宅を出て行ったという。